今の時代、何かと生産性を高めることが言われます。
自己啓発の世界でもすぐに行動することが善しとされ、「明日出来ることは今日やろう!」「すぐに行動出来ない人はダメな奴だ!」みたいなことが当たり前のように言われていますよね。
「明日やろうは馬鹿やろう」という格言(?)もあったり。
身近なところでも、5分前行動は当たり前、スピーディーな対応が賞賛され、もし遅延でも起ころうものなら、非難の格好の的に。
そんな効率性重視の世の中では、「先延ばし」は私たちにとって大敵に他ならないでしょう。
そうは言っても、自分の「先延ばし癖」に悩んでいる人もいるんじゃないでしょうか。
- やるべきことに中々手をつけられず、後回しにしてしまう自分が嫌になってしまう
- 早くから結果を出す周りの人を見て焦りを感じる
- 早く結果を出さなければいけないプレッシャーを感じて疲れてしまう
上記のような気持ちを抱える人も多いのではないでしょうか。
僕もマイペースな人間なので、この手のプレッシャーを色んなところで受けてきた訳です(笑)
世の中では、避けるべき悪として嫌われている「先延ばし」。
でも、実は先延ばしは、ある面ではものすごいメリットがあるんじゃないか?という話が面白かったので、ここでまとめていきたいと思います。
参考にした本はこちら↓
先延ばしのメリット
実は、先延ばしをすることでクリエイティビティが高まるメリットがあるんじゃないか?という話があるのはご存じですか?
組織心理学者のアダム・グラントさんは、著書『ORIGINALS』やTED「独創的な人の驚くべき習慣」などで「先延ばしはクリエイティビティや問題解決能力が高い人によく見られる習慣である」という趣旨の発言をしています。
いくつかの研究でも先延ばしとクリエイティビティが関連する傾向が見られています。
例えば、ある研究で学生たちに行った以下の研究があります。
- キャンパス内のコンビニエンスストアの跡地に新しい事業を作るといった提案書作成の課題を課した
- その際に学生を無作為に2つのグループに分け、一方のグループには課題の途中でゲームをプレイしてもらい、課題を先延ばしてもらう(プレイしたゲームは「ソリティア」や「マインスイーパ」のような普通のコンピュータゲーム)
- その結果、先延ばしグループの学生の方が、通常通り提案書を作成したグループと比較して28%創造性が高いと評価された!
もちろん「先延ばし」がどんな場合でも通用するわけではないでしょうが、必ずしも絶対的な悪だとは言い切れず、創造性においてはむしろ良い影響を与える可能性があるようですね。
しかし、ここで疑問になるのはなんで先延ばしによってクリエイティビティへのメリットが生まれるのだろうか?というところ。
ここがわからないと、「どんな場面でも毎回先延ばしをしても問題ないのということなのか?それとも場面を選んだり、何か注意すべきポイントがあるのか?それってどんなものなの?」みたいに迷ってしまいますね。
次からは、先延ばしがもたらすあらゆるイノベーションを見ていくことで、「先延ばし」を有効活用するためのポイントを探っていきましょう!
先延ばしから生まれるイノベーション
勝者はイノベーターかフォロワーか
勉強、仕事、恋愛など、あらゆる競争の場面で「早い者勝ち」を意識することは多いと思います。
- 苦労なんかしたくない!最短で結果を出したい!
- 周りを出し抜き誰よりも先に始めた方が、欲しいものを独占出来るので優位に立てる
- 自分だけが置いて行かれている感じがして不安になってしまう
- 誰よりも早く行動しないと周りに取られてしまう
何かしらの思惑があったり、焦りや不安があったり。
理由は様々ありましょうが、確かに直感的には、「競争に勝つために行動するなら、早ければ早いほうがいい」と思ってしまいます。
しかし、必ずしも早ければ早いほど競争に勝てる、というわけではないようです。
マーケティング研究者のピーター・ゴールダーとジェラルド・テリスが先発企業と後発企業を分析したところ、次のことがわかりました。
- 先発企業の失敗率は47%だったのに対して、後発企業が失敗する確率はわずか8%だった
- 仮に生き残ったとしても、先発企業の市場占有率は平均10%程度に過ぎないが、後発企業は平均28%の市場占有率だった
かなりはっきりとした数値で、後発企業の方が有利という結果が出ていますね。
他にも、例えばレンタルビデオ店で映画を借りるのが当たり前だった時代、投資銀行家のジョセフ・パークが「コズモ」という会社を設立し、オンラインで映画を注文できるサービスを始めました。
しかし後発のネットフリックスが台頭する一方で、コズモは2001年に倒産しています。
後発企業の方が成功する要因について、数々のベストセラーを手がけた作家のマルコム・グラッドウェルは以下のように語っています。
二番目か三番目になって、先発者がどうしたかを見届けて‥‥それから改良する方がいいと思いませんか?
(中略)
アイデアや世界がどんどん複雑になっていく中で、いちばん乗りの人がすべて解決できると考えるのは愚かでしょう。
いいものは、考え出すのに時間がかかりますから。
出典:『ORIGINALS』
米アイデアラボ社の創業者ビル・グロスは100件以上の起業に携わった後、その成功要因を分析したところ、「最大の要因はタイミングであり、42%の場合でタイミングが成功と失敗を分けた」ということが分かったと言います。
ここでいうタイミングとは、一番乗りになることを指すわけではありません。
「フォロワー」になることで、先発者や市場の動向を観察することで、成功要因を真似したり失敗から学び、製品やサービスを改良して競合よりも良いものを生み出すことで、優位性を確立していくことが出来るようです。
早く行動することだけを目的にしてしまうと、行き詰まりを起こしたり、衝動的な行動に走ってしまったり。
一方で、あえて「先延ばし」をすることで、虎視眈々と準備を進めつつ、適切なタイミングを持って行動出来るようになります。
これが、先延ばしがクリエイティビティにつながる1つ目の要因です。
歴史を変えたあの名言も先延ばしから生まれた!
1963年8月28日の午前3時、当時34歳の若者が、翌朝に行われる演説の草稿執筆に一心不乱に取り組んでいました。
この演説の支援者としてローザ・パークスやジャッキー・ロビンソンなど数々の著名人が名乗りを上げており、それほど重要なものであるにもかかわらず、この若者が草稿の執筆に着手したのは演説前日の午後10時。
その若者とは、キング牧師ことマーティン・ルーサー・キング・ジュニア。
直前に出来上がった草稿と共に一睡もせずに臨んだワシントン大行進の演説で、キング牧師は聴衆の心を動かしました。
この演説により公民権運動に火がつき、翌年1964年7月2日、公民権法の制定によりアメリカにおける人種差別は終わりを告げました。
キング牧師は人種差別に立ち向かった功績が讃えられ、当時の史上最年少となる35歳でノーベル平和賞を受賞しています。
そんなキング牧師の最も有名なフレーズといえば、
I Have a Dream(私には夢がある)
20万人もの聴衆を前に、この言葉に乗せて黒人が差別を受けることなく当たり前の日常を過ごすことを「自分の夢」として語った一連のフレーズは、人類の歴史上最も有名な名言の一つとも言えるでしょう。、
しかし、実はこの有名なフレーズが先の草稿には全く記載されてなかった、というのはご存じでしょうか?
演説に参加していたゴスペル歌手のマヘリア・ジャクソンが、キング牧師に向かってこのように叫んそうです。
「夢をみんなに伝えて!」
この言葉を受けて、キング牧師はぶっつけ本番で、先の名言を生み出したのです。
このように、事前に固めた計画に捉われることなく、柔軟に行動する余地が残るというのが、先延ばしがクリエイティビティを生むもう一つの要因です。
身近なところでは、例えば就職の面接で話すことをガチガチに固めていった結果、本番では考えていたことを思い出すことに終始してしまい結局うまく話すことができなかった、みたいな経験ってないですか?
事前に線密な計画を練るほど、計画に自信を持っているほど、その固執しがちになります。
古い考えに固執してしまうと、別の視点で見ることでさらなる改良を加えることも出来なくなります。
インド企業を対象に行われた研究では、計画的に行動する勤勉なCEOは柔軟性が低いと評価された一方で、仕事を遅らせる傾向のあるCEOは、多才であり戦略を柔軟に変え、様々な問題に対応出来ると評価される傾向にありました。
先延ばしから生まれる柔軟性が、クリエイティビティにつながる2つ目の要因です。
先延ばしのメリットを得るためのポイント
ここまでで「実は先延ばしには、クリエイティブの面ではすごくメリットがある!」という話をまとめてきました。
- 先延ばしにより先発者や周囲の動向を見ながら、改良を加えたり適切なタイミングを見極めることが出来るようになる
- 先延ばしにより、計画や考えに固執することなく行動できる柔軟性が生まれる
この2つが、先延ばしからクリエイティビティへのメリットが生まれる要因です。
なので「どんどん先延ばしをしよう!」と言いたいところですが、そうはならないのが難しいところ。
先延ばしのメリットを有効活用するには、注意点を押さえておく必要があります。
それは、「先延ばしをする時には、必ずアイデアを頭の片隅に置いておくこと」です。
無計画にとにかく先延ばしをすればいい、という訳ではないようですね。
例えば社会人を対象にした研究では、新しいアイデアへの情熱がない従業員が先延ばしをした時、メリットは何もなく単に問題解決が遅れただけ、という結果だったそうです。
キング牧師の草稿完成が直前になってしまったのは、それだけアイデアを集めていたから。
ワシントン行進のあった1963年だけでもキング牧師は350以上の演説を行なっており、頭の中にいろんなアイデアのストックがあったからこそ、即興でも素晴らしいものを生み出せたのです。
この記事の始めに書いたゲームをプレイした学生たちも、創造性が増したのは「提案書作成のことを頭の片隅に置きながらゲームをした学生」のみだったそうです。
つまり、何かしらのアイデアを持ちながら先延ばしをすることで、そのアイデアをより良いものにする考えを収集する時間が生まれる、という状態になっているか否かが、先延ばしによるメリットを得られるかどうかのポイントとなりそうですね。
まとめ
そんなところで、「嫌われまくりな先延ばしにも実はメリットがある!」という話をまとめていきました。
- 先延ばしは、クリエイティビティの面ではメリットがある
- 先延ばしによりクリエイティビティが生まれる要因は、主に以下2つがある
- 先延ばしにより先発者や周囲の動向を見ながら、改良を加えたり適切なタイミングを見極めることが出来るようになる
- 先延ばしにより、計画や考えに固執することなく行動できる柔軟性が生まれる
- ただし、何のアイデアもなく先延ばしをしても効果はないので要注意!
といったところでした。
まあ、日々の仕事でそう簡単には先延ばしは出来ないでしょうし、実際早く行動したほうがいいことがあるのも事実だとは思います。
ただ良いアイデアを生みたい時、答えのない重要な問題を考える必要がある時は、結果を急がずに色々と考えてみたり、幅広い経験を積んだり試してみたりするのもいいんじゃないでしょうか。
この辺りの話は、『RANGE』なんかにも通ずるところがあるので、興味がある方は併せて読んでみてください。
「先延ばし」について、アダム・グラントさんはこんなコメントを残しています。
大成功を収めている人たちは、スケジュールどおりに到着しているわけではない。
パーティには少しばかり遅れて着くぐらいが、格好がつくのだ。
出典:『ORIGINALS』
僕みたいなマイペース人間にはありがたい言葉ですねー。
長くなってしまいましたが、そういうことで。
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