この前『OPTION B(オプションB)』を読み終えました。
フェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)COOのシェリル・サンドバーグさんと、『GIVE&TAKE』『THINK AGAIN』など数々のベストセラーを手がけるアダム・グラントさんという、何だかすごいコンビによって書かれた本。
思わず興味を惹かれて読んでみました。
「OPTION B」とは、次善の選択肢のこと。
誰もが大なり小なり、人生に対する理想を持っています。
- 大好きなあの人とずっと一緒にいたい
- 自分の夢を叶えたい
しかし、理想の人生(OPTION A)だけを生きられる人はいません。
ずっと健康にはいられないし、どんな人とも、ずっと一緒にいることは出来ない。
幸せな時間にもいつか必ず終わりが来る。
夢や理想が打ち砕かれたり、想像を絶するようなトラウマに直面することもある。
人生はいつでも、「OPTION B(次善の選択肢)」をどう生きるか。
若くして最愛の夫を亡くしたシェリル・サンドバーグさんが、それを教えてくれます。
今まさに辛い思いをしている人、苦しんでいる人を支える立場にいる人、必見です!
本の概要
本書は、たとえ「OPTION B」を選ばざるをえない状況になったとしても、その「OPTION B」を使い倒し、再び喜びを取り戻すための本です。
突然「OPTION A」を失い、壮絶な悲しみに襲われたとしても、そこから立ち直り、苦難を乗り越え、以前よりも強くなっていく力(レジリエンス)をどう育んでいくか。
以下の通り構成されています。
1章:【もう一度息をつく
2章:【部屋の中のゾウを追い出す】
3章:【友情のプラチナルール】
4章:【自分への思いやりと自信】
5章:【逆境をバネに成長する】
6章:【喜びを取り戻す】
7章:【レジリエントな子供を育てる】
8章:【一緒に強くなる】
9章:【仕事での失敗と学び】
10章:【もう一度、愛し笑う】
悲しみのどん底からどう立ち直っていくか。
悲嘆の渦に飲み込まれている人とどのように接し、助けて上げられるか。
苦しみの渦中にいる自分が、周りに対して何が出来るのか。
そう言ったことを教えてくれます。
当記事では、本書全体の中から、「悲しみから立ち直る」「苦しみの渦中にいる人を助け出す」ためのポイントを、いくつか抜粋して紹介していきます。
著者の経験ー喪失は予期せず訪れる
私は自分が何者であるか、何者でありたいかを知りながら、この婚礼の日にあなたの心と永遠に結ばれるよう、私の心をあなたに捧げます。
出典『OPTION B』
この「永遠」は、突然の終わりを迎えた。
週末の午後、友人の誕生祝いのためメキシコの友人宅にいた著者は夫のデーブと共に、ゲームをしたりプールでのんびりしながら過ごしていた。
深く支えられ、真に理解され、心の底から愛される喜びを教えてくれた、夫のデーブと共に。
いつの間にか眠っていた事に気がつくと、同時にデーブがいない事に気がついた。
ジムに行くと言っていたことを思い出すと、特に気に留めることもなくプールに泳ぎに戻った。
だが、デーブは夕食の時間になっても帰って来ず、連絡も繋がらない。
パニックになり、こう叫ぶー「デーブがいないの!」
ジムに着くと、デーブはトレーニングジムの横で倒れていた。顔は青ざめ、頭の下に小さな血だまりが出来ていた。
救急車で病院に向かう30分が、永遠のように感じる。
ひとしきりの処置が終わり、小部屋にやってきたドクターはこう呟いた。
「お気の毒に……」そして、「ご主人にお別れを言いますか」。
こうして予期せず、長く重苦しい、残りの人生が始まった。
レジリエンスを育み、喜びを取り戻す
ポイント①:「3つのP」を克服する
- 心理学の大家であるマーティン・セリグマンは、人が失敗や挫折にどのように対処するかを長年研究し、次の「3つのP」が苦難からの立ち直りを妨げることを明らかにした。
- 「自責化(Personalization)」:全て自分が悪いのだと思うこと。
- 「普遍化(Pervasiveness)」:ある出来事が人生の全ての側面に影響すると思うこと。
- 「永続化(Permanence)」:ある出来事の余波がいつまでも続くと思うこと。
- しかし、実際はどんな出来事も、全て自分のせいでもなければ、全てに影響するわけでも永久に続くわけでもない。その事に気づけば、苦難からの立ち直りが早くなることを多くの研究が示している。実際に3つのPから抜け出せる人は、うつやPTSDを発症するリスクが低い。
- 著者の立ち直りに最も役立ったことの一つは、失ったものを考えるのではなく、失わなかったものへ感謝をすること。自分にはまだ子供たち残っている、と考えた。
- 感謝による効果は、研究により認められている。心理学者が行った研究で3つのグループに参加者をランダムに振り分けたところ、9週間後「感謝グループ(毎週1回、感謝できることを5つ書き出した)」は、他のグループより幸福感が有意に高く、健康上の問題も少なかった。
- 認知行動療法を試すのもいい。自分を苦しめている考えを紙に書き出し、次にその考えが誤っていることを示す具体的な根拠を書く、など。自分の感情を一歩引いた所から客観的に見ることが出来るので、気持ちを落ち着かせられる。
- 全て自分が悪いなんてことはない。自分ではどうにもならない、仕方のない要因もある。
- 悪い出来事が全てに影響するなんて事はない。今はそうは思えなくても、やがてそれは人生の一部になる。
- どんな出来事も、永遠には続かない。幸せにも終わりが来るように、苦しみにもまた、いつか終わりがやって来る。
- 例え濁流に飲み込まれ、どん底まで沈んだとしても、水底を蹴って水面に浮上し、もう一度息をつくことは出来るのである。
ポイント②:自分への思いやりを持つ
- 自己への思いやりが話題に上がることは少ないが、非常に重要なものである。
- 自己への思いやりを持てる人は幸福感と満足感が高い一方で不安感が低く、苦境からより早く立ち直ることができる。
- 例えば、アフガニスタンとイラクからの帰還兵を対象とした研究では、自己への思いやりを持つ人はPTSDの症状が優位に改善した。結婚生活が破綻した人を調査した別の研究では、「自己への思いやり」が苦境を乗り越えるのに最も役立ったことがわかっている。
- 自己への思いやりは、「人間である以上、落ち度があるのは当たり前」という認識から始まる。
- 自己への思いやりを持つことは、過去の言動の責任逃れをすることではない。自分の過ちを認めることが重要であり、その上で自分の人格ではなく言動を責めるように心がける。すると、自分自身に対する「恥」ではなく、言動への「罪」の意識が持てるようになる。
- 恥の意識が強いと、問題行動に走りやすい。一方で、罪の意識は努力を続けたり、次はより良い選択をしようといった心がけを生む。
- 例え自分の言動に問題があったとして、あなたの人格に問題があるわけではない。言動をより良くすることに努めつつも、あなたという「自己」へ、あなた自身が思いやりを持って接すること。
ポイント③:意識的に「ちょっとした喜び」を見つける
- 人はポジティブよりネガティブなことに注意を払うようにできている。そのため、喜びを見つけるためには、意識的な努力が必要である。
- 実際に、例えば配偶者を亡くした人を12年感追跡したオーストラリアの研究で、死別前と同じ頻度で喜びを味わうことができた人は、全体の約26%のみだったという。
- 喜びを見つけようとする時、私たちは卒業や出産、就職など大きな出来事に目を向けがち。しかし幸せにおいては、大きさよりも頻度の方が遥かに大切である。
- 日常のちょっとした喜びに気づき、それを楽しむこと。そのために、例えば日記などに毎日3つ、些細なことでも「喜びを感じた瞬間」を書き出すといい。たった3日間楽しかった経験について書くだけで、その後3ヶ月にわたって精神状態が大きく改善したというデータもある。
- 喜びの捉え方は人それぞれ。それでも、喜びを感じる権利は誰にでもある。自分なりの喜びを、意識的に探してみよう。
人がレジリエンスを育む支えになる
ポイント①:心を開く「オープナー」
- 辛い思いをしている人に対しては、辛いことを思い出させて落ち込ませたくないという想いから、積極的に話しかけることを躊躇してしまうことがある。
- しかし、辛い話題を避けることが、相手の気持ちを慮るとは限らない。トラウマを味わった人でさえ、その体験を語りたがる人は多い。辛い経験を包み隠さず語ることは、心身の健康促進に効果があるという有力な証拠もある。
- 普通の状況でさえ、一人きりで考えに耽るのは苦痛に感じられることがある。例えばある実験では、女性参加者の1/4、男性の2/3が、15分間何もせずに1人で座っているよりも電気ショックの苦痛を自分に与える方を選んだ。
- 相手が話しやすいように気を配る人を、心理学者は「オープナー」と呼ぶ。相手の心を開き、自己開示を引き出しやすい人のこと。オープナーは苦境に置かれた人、特に普段控えめな人にとって、大きな救いになる。
- オープナーはたくさん質問し、相手の返答に自分の判断や評価を加えることなく、ただ理解に努める。心理療法士のティム・ローレンスは、「一番良いのは相手の気持ちを理解し、そのまま受け止めることである」という。
- 辛い本音を話したくない時もある。そんな時、著者が一番ありがたいと感じたのは、次の言葉。
- 「話したくなったら私はここにいるから。今でもいいし、後でもいいよ。真夜中でも歓迎。」
- 自分からきっかけを与え、あとは相手の判断に任せる方がいい。相手を気にかけていることが伝わるだけでも、人は救われる。
ポイント②:苦しんでいる人を救う「ボタン」になる
- 人は、自分で状況をコントロールできると意識するだけでも、ストレスに強くなる。これを示すものとして、以下のある有名な実験がある。
- ランダムに発される不快な騒音を参加者に聞かせて、集中力が求められる課題に取り組んでもらった
- やがて参加者に激しいストレス反応が起こり、集中が途切れてミスを連発した
- そこへストレスを軽減するための逃げ道として、「ボタンを押すと音を止められる」ことを教えた
- その結果、ボタンを与えられた参加者はミスが減り、苛立ちを見せることも少なくなった。驚くべきは、実際にボタンを押した参加者が1人もいなかったにもかかわらず、である。
- 「自分はいつでも騒音を止める事が出来る」という事実からコントロール感が生まれ、ストレスに耐える力を高めたのである。
- 辛い人に手を差し伸べるのは当たり前と思うかもしれないが、心理的な壁により手を差し伸べられないことがある。苦しむ人の問題を解決してあげられない、自分に対する無力感に打ちひしがれる人もいる。しかし、上の実験が示すように、問題を解決しなくともそこにいるだけでいい。
- 苦しんでいる人に顔を見せるだけでも、気にかけていることを示すだけでいい。それだけで、あなたは相手にとっての「ボタン」になる。「自分が辛い時に、そばにいてくれる人がいる」と信じられれば、苦しんでいる人にとって大きな力になる。
- 注意点は、相手を励ます時に自分のあるべき論を押し付けないこと。悲しみ方も慰め方も人それぞれで、誰かの役に立ったことがその人に役立つとも限らないし、ある日役立ったことが今日も役立つとは限らない。悲嘆をどう感じるか、どう抜け出すか、そしてそのペースも人それぞれ。
たとえ「OPTION B」でも、私たちには選択肢がある
壮絶な悲しみの後、著者は本の最後でこう書いています。
私はこの本を書き、人生の意味を見出そうとしたが、悲しみを追いはらうことは出来なかった。
出典:『OPTION B』
今でも悲嘆が波のように襲い、意識の中に入り込んできて、他には何も感じられなくなるときがある。
(中略)
でも悲嘆は波のように押し寄せる一方で、潮のように引いていく。
そして潮が引いてみると、ただ生き延びただけでなく、ある面では前より強くなっていることに気がつく。
たとえオプションBであっても、私たちには選択肢がある。
いまも人を愛し‥‥そして喜びを見つけることができるのだ。
(中略)
デーブをとり戻すためなら、この成長をあきらめるかって?
あたりまえよ。
だれも好き好んでこの方法で成長したいとは思わない。
でも悲劇は否応なしに起こりーそして私たちは成長するのだ。
哲学者のセーレン・キルケゴールは、「人生は後ろ向きにしか理解出来ないが、前向きにしか生きられない」と言ったそうです。
喪失は誰にでも起こるもの。
夢が破れたり、失恋したり、時には大切な命が失われることも。
喪失を経験したい人は誰もいませんが、事前に避けることは出来ません。
望まない形で、「OPTION B」を選ばざるを得ない状況は起こります。
しかし「OPTION B」の中であっても、私たちには選択肢があります。
喜びを取り戻し、前に進んで行くという選択肢が。
ゆっくり自分なりのペースでいいし、たとえ悲しみを消せなくとも、前に進んで行くことが出来ます。
最愛の夫を失ったあと、シェリル・サンドバーグさんの長年の友人、フィルさんはこういう言葉を掛けたそうです。
「オプションAはもう無理んだ。ならば、オプションBをとことん使い倒そうじゃないか」。
出典:『OPTION B(オプションB)』
苦しくても辛くても、それでも前に進んでいけるように。
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