人生に成功する秘訣は、自分が好む仕事をすることではなく、自分のやっている仕事を好きになることである。
-ゲーテ(詩人・劇作家)
こんな話、皆さんもどこかで聞いたことがあるのではないでしょうか。
ある建設現場で働く3人の石切職人に、旅人はこう尋ねました。
「あなたは何をしているのですか。」
1人目の職人は「生活のために決まってるじゃないか!」と答えました。
2人目の職人は「この石を切るために一生懸命仕事をしているんだ!いつか村一番の職人になるさ!」と答えました。
3人目の職人は「人々の安らぎの場となる、大聖堂を作っているんです。」と答えました。
これは17世紀の建築家、クリストファー・レンが伝えたエピソードです。
日本ではこのレンガ職人バージョンのイソップ寓話「3人のレンガ職人」が有名ですね。
会社の研修などの場面で、この話を聞いたことがある方もいるでしょう。
いずれの場合も、この話から伝えられるメッセージは同じ。
「3人目の職人のように働こう!」
仕事にやりがいを持って働くことが出来れば、それに越したことはない。
自分に明確な価値観があり、その価値観に沿った仕事が出来れば、きっと人生も楽しくなるはず。
多くの人はそう考えるのではないでしょうか。
実際、価値観に沿った行動がいいのは間違いないところ。
例えば、価値観が人生にもたらす影響を調べた研究には以下のようなものがあります。
- ロチェスター大学が2014年に約6000人の男女を対象に行ったコホート研究によれば、「価値観を持って生きている」と答えた人は、そうでない人と比べて14年後の死亡率が15%低い傾向があることがわかった
- 5000人のアメリカ人を10年ほど追跡したコーネル大学の研究によると、「人生の価値」の強さが標準偏差から1つ高くなるごとに、貯金額が244万円ずつ増える傾向があった
仕事も含めて、人生に価値観を見出して行動することが出来れば、人生の満足度が上がり、健康面や収入面にも良い影響を及ぼすようです。
そうは言っても、「仕事なんてつまらない!正直仕事は嫌いだ!」という方もいらっしゃるでしょう。
- 「やりがいのある仕事が見つからない、、、そんなもの、本当にあるのかな?」
- 「面白いと思える仕事も多少はあるけど、つまらない仕事や意義を感じられない仕事の方が多い」
そう感じる方もいらっしゃるでしょう。
現実問題、自分がやりたくない仕事もやらなければならない場面も多いでしょう。
そんな中で、つまらない仕事であっても、自分で見出し、意義を持たせることも出来るよーというのが、「ジョブクラフティング」というテクニックです。
- ジョブクラフティングとはどんなものなのか?
- 具体的にどうやるのか?
というところをまとめていきたいと思います!
参考にした本はこちら↓
ジョブクラフティングとは?
ジョブクラフティングの定義と効果
ジョブクラフティングとは一体どういうものなんでしょうか?
鈴木裕さんの著書『科学的な適職』では、次のように定義されています。
「ジョブクラフティング」の定義は複雑ですが、ひとことでまとめてしまえば、
◉自分の仕事を価値観にもとづいてとらえ直す方法
のようになります。
出典:『科学的な適職』
「自分の価値観、関心、スキルに合うように考え方や日々の行動を修正していくことで、モチベーションを高めて働こう!」みたいな考え方ですね。
その効果は研究でも実証されており、例えば2017年にセントルイス大学が3万5000人以上もの被験者のデータを集めたメタ分析で、「ジョブクラフティングが仕事に与える影響」を調べました。(R)
その結果どれくらい影響があったかというと、
- 前向きな行動の増加(r=0.509)
- 問題を積極的に解決する姿勢の増加(r=0.543)
- 主体的に仕事に取り組む感情の増加(r=0.450)
といったところでした。
この数字は相関度を表す効果量で、r=0.50を超えると、割と因果関係があると認められるものです。
この数字を見る限りは中々の期待が持てそうな感じじゃないかと。
ジョブクラフティングには仕事の取り組みに対してポジティブな影響がありそうですね。
ジョブクラフティングの元となった研究ーある女性従業員のエピソード
ジョブクラフティングは、2001年に組織行動学の専門家であるエイミー・リゼスニュースキとジェーン・ダットンが発表したもの。(R)
この研究対象となった一つに、キャンディス・ウォーカーという、ある病院で働く女性従業員の話があります。
彼女のミッションは、患者や患者の家族の弱くなった心を元気づけること。
癌治療を受ける患者の家族にコーヒーを差し入れたり、自分の失敗談で患者を笑わせたり。
エレベーターの前で苦痛に悶える患者を見つけたときは、他の従業員が対応に困って躊躇している中で、すぐさま患者を車椅子に乗せて緊急治療のために運んだこともありました。
彼女は病院を「希望の家」と呼び、ある患者は彼女を「命の恩人」と呼んだそうです。
そんな彼女の仕事は、医者でも看護師でもありません。
彼女は、この病院の用務員でした。
「これは、仕事の一部ではなく、私の一部なんです」
自分の振る舞いについて尋ねられた彼女は、上記のように答えたそうです。
自分の行動や考え方を見直していくことで、どんな立場にいても、自分の価値観に合うように仕事を変えていくことはできるんですね。
ジョブクラフティングのやり方
3つの要素
ここまででジョブクラフティングの効果を見ていきました。
ここからはいよいよ実践編。
ジョブクラフティングには、大きく3つの要素があると言われています。
- タスククラフティング
- 人間関係クラフティング
- 認知的クラフティング
それぞれどんなものかというと、
①タスククラフティング
仕事をやりやすくするため不要な作業を減らして新たな仕事を加える。
その上で作業内容を自分の望ましい方向に変えていく。
②人間関係クラフティング
仕事を通じて積極的に人との関わりを増やしたり、関わる人を増やす。
その中で人との関わり方を見直していく。
③認知的クラフティング
自分の仕事を、全体の流れや社会的意義から見直していくことで、意味のある、やりがいのあるものとして見立てていく
ざっくり言えば、自分のスキルや価値観に合うような仕事を増やし、良い人間関係を築き、仕事の中に意味を見出していくことが、ジョブクラフティングの大まかな方向性だといえそうです。
これらを踏まえて、具体的なやり方を見ていきましょう!
ジョブクラフティングの手順
ジョブクラフティングのやり方は色々なものがありますが、ここでは『科学的な適職』で紹介されていたものを取り上げていきます。
詳細は『科学的な適職』を見ていただければと思うのですが、ここではざっくりまとめていければと思います。
①ビフォースケッチ
まずはこのステップで、現在の自分の仕事を分析していきます。
「どんな仕事にどれくらいの時間をかけているのか?」という点を可視化していきます。
後のステップの事も考慮して、それぞれの作業を図形などで視覚的にわかりやすい形にしていくのがオススメです。
②ビフォースケッチの省察
①を見ながら次の質問について考え、答えを1〜2個の短文にまとめて記録します。
質問①:
- 今の仕事を最初に始めた時と比べて、現在の時間とエネルギーの割り当てに変化があるか?
質問②:
- ビフォースケッチを見てどのように感じたか?なぜそう感じたんだろうか?どこか驚いた点はあるか?
③動機と嗜好のピックアップ
次の質問への答えをまとめていきます。
「動機」の質問:
- 仕事を通じてどのような「価値観」を達成したいか?
- もし今の自分が満たされ何ら不安もない人生を送っていたとして、それでも自分を仕事に駆り立てるような感情とはどのようなものか?
「嗜好」質問:
- 実際に仕事を行うにあたって、どのような能力やスキルを発揮していきたいか?
- どんな行動を通して自分の価値観を達成したいのか?
④作業クラフティング
このステップで、上にも書いた作業クラフティングを実施します。
自分の「作業に対する責任範囲」を変えていくことで、仕事の中身を自分の望ましい方向に近づけていきます。
この時に思い浮かんだキーワードを、①で作成した図形に書き込んでいきます。
⑤人間関係クラフティング
このステップで同僚や上司、クライアントなど仕事の中で自分を取り巻く人との人間関係を見直していきます。
①で作成したブロックに、それぞれに関係する重要な人物を書き出していきます。
⑥認知的クラフティング
このステップで自分の仕事に対する考え方を変え、つまらない仕事にも意味を見出していきます。
次の質問に答え、自分がポジティブになれるような、仕事の中での「役割」を定義していきましょう(キャリアアップの手段として活用する、自分の価値観を存分に発揮する、など)。
- これらのタスクは、組織や自分にとっての大きな目標につながっているか?
- より上位のゴールや価値観を満たすために、このタスクを役立てることが出来るか?
⑦アクションプラン
最後に、①〜⑥をもとに、具体的にどんな行動を取るかを決めていきましょう。
ここで決める行動は、⑥で決めた役割を満たすものであれば、どんなものでも大丈夫です。
そんな感じで、若干面倒ではありますが、「仕事がつまらない!」ってお悩みの方は是非試してみてください。
もちろん、例えば下記の記事に当てはまるようなブラック企業に勤めているとか、精神的にしんどい思いをしているとかって方は、ジョブクラフティングどうこうより今すぐその会社を辞める事をオススメしますので、その辺り悪しからず。
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