鈴木裕さんの「最高の体調」を読んでいきました。
『最高の体調』はざっくり言えば「肥満や慢性疲労、うつ病などの根本的な原因は“人類の進化と現代のミスマッチ“にある!」といった内容。
「急激な近代化に人の進化が追いついておらず、それがさまざまな“文明病“を引き起こし、心身の不調につながっている」といった進化医学の考え方が基盤となっています。
誰しもが大なり小なり何かしらの不調を抱えているんじゃないかと思いますので、読んで損のない本じゃないかと思います。
著者はサイエンスライターの鈴木裕さん。
累計100万本以上の論文を読破した科学的知見から、『無(最高の状態)』『進化論マーケティング』『科学的な適職』など、他にもあらゆる分野の著書を手掛けています。
月間250万PV超のブログ「パレオな男」の運営者でもありますね。
個人的に特に「価値観」について書かれた章が特に勉強になったので、この内容を中心にまとめていきたいと思います。
- 「そもそも価値観ってなんなんだろう?」
- 「価値観を明確にした方がいいとは言うが、それはなぜだろう?どうすれば自分の価値観を知ることができるんだろうか?」
改めて「価値観」について考えたい方、自分の価値観を知りたい方へ、少しでも参考になればと思います。
ちなみに本書は漫画版もあるので、まずはこちらを読んでみるのもアリかもしれませんね。
本の概要
本書は上にも書いたように進化医学の考え方がベースになっています。
人間の遺伝と現代の環境にミスマッチが起きており、自分が抱える問題のミスマッチ箇所を特定して修正していくことで文明病に立ち向かおう!といった内容です。
そして文明病を引き起こす要素は、「炎症」「不安」の2つに大別できるので、それぞれに対策を立て対処していこう、という感じになっています。
「炎症」「不安」への具体的な対策は是非本書を読んでいただければと思いますが、今回まとめる「価値観」は、本書の中で「不安への対策として一番に取り組むべきこと」として位置付けられているものです。
まずは本書の冒頭部分を簡単にまとめた上で、今回の主題である「価値観」について具体的にみていきたいと思います(ちなみに以下は自分の言葉に置き換えながらまとめていますので、著者の正確な表現を知りたい方は是非本書をお読みください)。
本書の問題提起
便利になった現代でなぜ人々の心と身体が蝕まれているのか?
- 文明の発達により現代の生活は豊かになったが、その一方で日々の生活に疲れ果て、幸福から程遠い状態にある人も多い。近代化が生み出した「文明病」が、現代人の心身を蝕んでいる。
- 文明病の典型例は肥満。アメリカ疾病管理予防センターによれば、1950年代の肥満率は10%未満だったのが、2010年代には35%になっている。
- 進化医学では、肥満の根本の原因は「人類の進化と現代のミスマッチ」にあると考えている。現代と違ってカロリーが低い食品ばかりだった原始の時代では、必要なカロリーを満たして生き延びるため、私たちの脳の報酬系はできるだけカロリーの高い食品に反応するよう進化してきた。このように人間は原始の環境に適応するように進化してきているので、急激に変化した近代社会の環境に適応できていない。
- 肥満の他にもうつ病や慢性疲労、集中力散漫などの問題も、進化と環境のミスマッチが根幹の原因だと考えられる。
- このような原因があるにも関わらず、自分が抱える問題を自分の意志力や不注意によるものと考えて思い悩んでしまうのが、何よりの悲劇。例えばダイエット中にお菓子やジャンクフードを食べてしまったとき、「自分はなんて意志が弱いダメな人間なんだろう。。」などと考えてしまう。しかしそもそも人はハイカロリーを好むよう設計されているので、それを意志の問題と捉えても問題は解決しない。
- 文明病を引き起こす要素は「炎症」と「不安」の2つ。「炎症」も「不安」も原始の時代から存在していたが、環境が変化したことにより、その性質は大きく異なっている。
要因①:炎症
- 長寿な人には「体の炎症レベル」が低いという共通点がある。例えば2016年の慶應大学医学部のチームが老化の少ないスーパー高齢者の特徴を調べたところ、一般の高齢者と比べて体の炎症レベルが極端に低いことがわかり、炎症レベルがわかれば老化スピードの予測ができるとした。
- 原始の時代は短期的な炎症がメインだったが、現代では慢性的な炎症が中心となっており、この「慢性的な炎症」は心身の様々な問題を引き起こしている。
要因②:不安
- 現代が「不安の時代」であることは多くのデータが示しており、不安障害の患者は15年で2倍に増加している。また、不安障害の発症率には地域差があり、近代化レベルの高さに相関することもわかっている。
- 原始の時代では脅威の対象が明確な「はっきりとした不安」が中心だったが、現代では対象や解決策がわからない、「ぼんやりした不安」が多い。「ぼんやりとした不安」は記憶力・判断力の低下、ストレスに敏感になる、心疾患や脳卒中リスクの上昇といった悪影響があることがわかっている。
- 元々ネガティブな感情は厳しい原始の環境で人が生存するために進化してきたもので、不安は「危険を知らせるアラーム」としての機能を持っている。しかし、生命の危機に脅かされるレベルの脅威が少ない現代では、「不安」は機能不全を起こしている。
どんなミスマッチが現代の「炎症」「不安」を引き起こしているのか?
- ハーバード大学の古代人類学者ダニエル・リーバーマン氏は、古代と現代のミスマッチを3つのパターンに分類した。
- 現代では多すぎる:カロリー、アルコール、オメガ6脂肪酸、人生の価値観、見知らぬ人とのコミュニケーションなど
- 現代では少なすぎる:運動、睡眠、ビタミンや食物繊維などの栄養、自然との触れ合い、深い対人コミュニケーションなど
- 古代には存在していなかった:加工食品、トランス脂肪酸、デジタルデバイス、仕事のプレッシャー、慢性的なストレス、孤独感など
- これらのミスマッチが現代的な性質の「炎症」「不安」を引き起こす真犯人である。上記を踏まえて自分が抱える問題のミスマッチ箇所を特定し、遺伝に合うように環境を修正していくことが、我々が問題解決のために取り組むべきことである。
人生の「価値観」を見定める
今回の主題である「価値観」についてまとめていきたいと思います。
「価値観」は上記で述べた「不安」への対処として一番に取り組むべきものとして、本書の中で位置付けられています。
まさに「不安」に悩んでいる方、そうでなくとも「価値観」への理解を深めたい、自分の価値観を知りたいといった方へ、少しでも参考になればと思います。
そもそも「人生の価値観」とは?
- 認知行動療法の一つであるACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、「価値観」を「こんな感じで生きていきたい!」と自分自身が心から思える人生の方向性と考えている。
- 価値観とよく混同しがちなのが「目標」。似ているようだが両者には明確な違いがある。
- 目標:達成すべきゴールであり必ず終わりがある。成功/失敗という結果が明確。
- 価値観:常に現在のプロセスであり終わりがない。成功も失敗も存在しない。
- 例えば「〇〇になる」「〇〇という仕事に就く」といったものは「目標」。「〇〇な人間でいる」「好きな人と暮らす」といったものは「価値観」。
- 「価値観」は「幸福になりたい」「尊敬されたい」「お金を稼ぎたい」のように、自分の人生に足りない要素を補うものではない。本当の価値観とは、自分が人生でどのように行動したいかを問い続けるプロセスである。
- 全てが満ち足りた状態でもなお行動せずにはいられない物事こそが、あなたのそこに眠る本当の価値観である。もしそれでも「目標」「価値観」が混同してしまうようなら、以下のように自分に問いかけてみるといい。
- もしすでに使いきれないほどのお金を手に入れ、理想の仕事につき、毎日が幸福感に満ち溢れていて、誰からも尊敬されていたとしたら、私はどのように行動するだろうか?自分や他者との関わり方はどう変わるだろうか?
- その答えが、あなたの価値観である。
「価値観」は私たちに何をもたらすのか?
- 「ぼんやりとした不安」の問題に立ち向かうには、まずは「未来を今に近づける」こと。つまり、自分の「価値観」を見定めるべきである。
- 現代では価値観が多様化しており、それが私たちの未来像をぼんやりしたものに変えてしまう。「選択肢の多様性」と言えば聞こえはいいが、多様さは迷いや不安、そこからくるストレスを生みやすい。
- 価値観は私たちの現在と未来の心理的距離を近づける。これは心理学でいうところの「自己連続性」と呼ばれる考え方である(具体的に未来の自分をイメージできるかどうかではなく、ちゃんと今の自分と未来の自分の繋がりを感じられるかどうか)。
- 「時間割引率」を調べたブライアン・ナットソンの研究で、「自己連続性」が強いほど不安に強く、セルフコントロール能力も高いという事実がわかっている。このように「自己連続性」が強ければ、ぼんやりとした不安は生まれなくなる。つまり「価値観の明確化」により自分が未来に向かうはっきりとした道筋が見えるので、多様な選択肢に悩まされ、不安やストレスを感じることもなくなる。
- 「明確な価値観」の力は非常に強力である。アウシュビッツ強制収容所の中でも生き延びる姿勢を崩すことのなかった精神科医のヴィクトール・フランクル氏は、「明確な価値観」が迫害さえも耐え抜くほどのモチベーションを与えてくれるという。実際にフランクル氏の考えを多くのデータが支持しており、例えば6000人の男女を対象とした2014年のロチェスター大学のコホート分析では、「価値観を持っているか?」にイエスと答えた人は、14年後の死亡率が15%も低い傾向があった。
- 「明確な価値観」により寿命が伸びる理由は様々考えられるが、データによれば価値観が明確な人は、自然と健康的な食事と運動を実践しているとのこと。このような結果を踏まえてロチェスター大学の研究チームは「人間には人生になんらかの方向性が必要なのだろう」とコメントしている。
どうしたら「自分の価値観」を見定めることができるのか?
- 価値観の明確化に使えるツールとして、ミシシッピ大学が考案した「価値評定スケール」や、ケンブリッジ大学が考案した「パーソナル・プロジェクト分析(PPA)」がある。「価値評定スケール」は「結婚・恋愛」「仕事・キャリア」などの項目から価値観を掘り下げるトップダウン型のツールで、「PPA」は「満足度の高い人生」といった概念に対して自分の行動や取り組みから見えてくる共通ポイントを探るボトムアップ型のツール。
- ただし、私たちは「価値観の明確化」が苦手である。原始の時代において「価値観の明確化」は必要ないことだったので、人は自分の価値を見定られるように進化してきてはいない。なので「価値評定スケール」や「PPA」などのツールを駆使しても、しっくりくる価値観が出てこないことも多々ある。
- 上記のツールを使ってもしっくりこない時は、「多くの人が幸福を感じる価値観」に従ってみてもいい。ミシガン州立大学のメタ分析により、「幸福を感じやすい価値観」には以下4つの性質があることがわかっている。
- 「自治」:どれだけ人生を自由にコントロールできるか?
- 「多様性」:仕事や人間関係に多彩さがあるか?
- 「困難」:人生のタスクに適度な難しさがあるか?
- 「貢献」:他者の役に立っているか?
- この中で飛び抜けて幸福への影響度が高いのが「貢献」である。キング牧師がかつて聴衆に語りかけた次の問いに答えるつもりで、自分の価値観を探ってみてはどうだろうか。
人生でもっとも永続的でしかも緊急の問いかけは『他人のために、今あなたは何をしているか』である。
-キング牧師(アフリカ系アメリカ人公民権運動指導者)
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