【要約】『才能の科学』ー「才能」は過大評価された単なる幻想だ!

価値観/キャリア

マシュー・サイドさんの『才能の科学』を読んでいきました。

今年6月末に出たばかりの本で、同じ著者の『失敗の科学』が面白かったという事もあって読んでみた感じです。

この本の主張は「この世に才能なんてものはない!すべては努力によるものだ!」という、すごくシンプルなもので、それが色んなデータやエピソードに基づいて語られています。

著者はオックスフォード大学を主席で卒業、一方で卓球のオリンピック代表で活躍した経歴などを持ったイギリスのジャーナリストであるマシュー・サイドさん。

また、他にもベストセラーとなった『失敗の科学』を始め、『多様性の科学』などを手がけています。

その中でもこの本の原著となった『Bounce』は、同著者のデビュー作です。

まさに「才能の塊」と思える経歴を持った著者自身が、本書を通じて「才能」の存在を否定し、「努力の重要性」を立証していきます。

一体どんな内容なんでしょうか?早速内容をまとめていきたいと思います。

ちなみに以下のまとめは本の要点のみを自分の言葉に置き換えながらまとめていますので、著書の正確な表現で読みたい方は是非本書を読んでみてください!

スポンサーリンク

ポイント①:「才能」は本当に存在するのか?

  • スポーツの世界など、世の中は能力主義であり、才能で成功が決まると思う人が多い。例えば人の驚異的な技能やパフォーマンスを見ては「彼らは特別な才能や遺伝子を持った人間なんだ!」と考えてしまう。だがそれはプロセスの最終結果を見ているだけであり、その裏にある数えきれないほどの練習時間があることを無視している。
  • 「才能で決まる」「才能の象徴」などとして語られる「反射神経」「神童」「人種」などの概念も、練習時間で説明できる。

才能という幻想①:「反射神経」

  • スポーツ選手の驚異的な反射神経や運動技能は、先天的なものではなく後天的に獲得されたものである。
  • 例えば、卓球界で最も鋭い反射神経を持つことで知られたデズモンド・ダグラスは、反射神経のテストをしたところスタッフを含めた全英チームの中で、最も鈍いという結果が出た。また、あるスポーツで最高の反応を見せる選手が、別の競技でそれが出来る訳ではない。
  • スポーツ選手の脅威的な反応の秘密は、認知機能の発達にある。ある情報がインプットされると、脳と中枢神経に特定の行動が記憶のコードとして記録され、別の行動との関連付けが行われる。この脳の関連付けが強っていく中で徐々に、無意識に、素早く、優れた動きをとることができるようになる。
  • こういった反応は、消防士や軍の指揮官、チェスのプレイヤーなど、スポーツ選手以外にも見られる。彼らは複雑で予想外の状況でも、一瞬のうちに判断を下すことができる。
  • このような能力の習得には、長い経験と深い知識が必要である。一朝一夕に身につくものではなく、ましてや先天的なものではない。長年の積み上げがあるからこそ、脳に蓄積された大量のパターンから素早く情報を解析し、意識せずとも瞬時に最高の意思決定が出来るようになるのである。

才能という幻想②:「神童」

  • 皆が驚くような神童も、才能によるものではない。彼らは非凡な才能を持っていたのではなく非凡な育ち方をしている。
  • 例えばモーツァルトは、3歳から作曲と演奏の練習を始め、6歳になる前にすでに3500時間もの練習を積んでいた。タイガー・ウッズも同様で、2歳の頃から英才教育を受け、10代半ばの時点で既に1万時間もの練習を重ねていたという。この圧倒的な練習時間の量が、神童と呼ばれるような技能を生んでいる。
  • ちなみに、上記の例のように幼いうちから徹底的な練習を積むことにはリスクもある。子供が幼い頃から集中的な訓練を積むためには「内的動機(子供自身が自然と、特定の分野に熱意を持って取り組むことを決意する)」が必要である。実際、一流選手でも幼い頃から練習を始めたのは少数であり、青年期前半時点で高い水準に達する子供はさらに少ないことがわかっている。
  • 「内的動機」を引き出すには、無理強いしたり過度なプレッシャーを与えることなく、子供がそれを「楽しいこと」だと感じられるようにトレーニングを促すこと。親から練習を無理強いされた子供は「内的動機」が欠けて燃え尽きてしまう危険があるので、注意が必要。

才能という幻想③:「人種」

  • 今日ではスポーツなどあらゆる分野で、人種による優劣が語られることがある。
  • 例えば、短距離走で世界記録を更新してきた選手は全て黒人である。その事実を受けて「短距離走では黒人に遺伝子的優位性がある」と言われるが、それは本当なのだろうか?
  • 短距離楚に長けているのはごく一部の限られた地域(アフリカ西部沿岸諸国にルーツを持ったアフリカ系アメリカ人とジャマイカ人)だけ。また、長距離走で圧倒的に強いと言われる人たちは、ケニアのごく一部の地区(ケニア全体の人口の1.8%)にその多くが集中している。
  • このような差を生まれるのは、遺伝的要因ではなく社会経済要因だと考えられる。
  • 長距離走に強いケニアのナンディ族の人々は、他の地域と比べてかなりの高地に住んでいることに加え、ケニアの青少年はたちは、場合によっては20km以上離れた学校に日々走って通う必要がある。
  • また、遺伝的要因であることを否定する根拠もある。例えば、シカゴ大学のリチャード・ルウォンティンの研究により、遺伝子の大部分において、人種間の差異はほとんどないことが発見されている。人種間で異なる遺伝子はわずか7%しかなく、約85%は人種関係なしに個人ごとに異なる遺伝子である。また、短距離走の成功と関連するCTN3という遺伝子をジャマイカ人の98%が持っているが、短距離走ではほとんど実績がないケニア人はジャマイカ人以上にこの遺伝子を持っている。
  • このように、肌の色は同じでも実際には様々な人口集団がおり、スポーツにおける優位性を持つのもその一部の人たち。肌の色が同じというだけで同様に語るのはひどく単純化された議論であり、非常にナンセンスである。

ポイント②:傑出に必要なのは「一万時間の目的性訓練」

  • 一流になるために必要なのは才能ではなく練習時間である。これを裏付ける有名な研究として、1991年にフロリダ州立大学の心理学者アンダース・エリクソンとその同僚が行った研究がある。ドイツのバイオリニストを技能レベルに応じて3つのグループに分け、インタビューを実施した結果、各グループ間で経歴の違いはほとんど違いがなかった。その一方で練習時間だけが大きく異なっていた。このような練習の重要性は、この研究以外でも音楽やスポーツ、学習など他の様々な分野で見られている。
  • 著者はイギリス郊外のごく普通の家庭で生まれたが、オリンピックにおける卓球のイングランド代表にまで上り詰めた。これも決して恵まれた才能によるものではなく、下記のような環境要因があったから。
  • 幼い頃から卓球代を与えられ、兄と共に毎日何時間も遊んでいた。当時卓球台を常時置いている家庭は珍しかった。
  • 地元小学校の先生の一人が全英トップクラスの卓球コーチであった。
  • 地元には全英でも非常に珍しい、24時間オープンの卓球クラブがあった。
  • これが環境要因であることを裏付けるように、著者が生まれ育ったたった一本の通りから、実の多くの卓球界の一流選手が生まれている。著者や近所の子供たちは偶然の要因の恩恵により、10代前半時点で既に何千時間もの練習を積んでいた。
  • チェスやゴルフ、数学などあらゆる分野での研究から、傑出するために必要な練習時間もわかっている。マルコム・グラッドウェルは著書『天才!-成功する人々の法則』のなかで、ほとんどの人は年に1000時間、これを10年続けることが必要だとしている。グラッドウェルは、これを「1万時間の法則」として紹介している。
  • とはいえ、単に練習時間を積み上げるだけでは十分ではない。例えば仕事等で1万時間以上運転をしているドライバーが、世界トップのドライバーになるわけではない。練習時間だけでなく、練習の質も重要である。
  • 質の低い練習にありがちなのが同じ練習を淡々とつづけてしまうこと。多くの集中と工夫を要する練習を「目的性訓練」や「集中的訓練」と呼ぶ。目的性訓練は容易ではないが、その分絶大な効果がある。
  • 人間の脳や体には驚異的な順応性があり、同じことを繰り返しているとやがて意識しなくても簡単に出来るようになるが、何気なく練習に打ち込んでも意味は薄い。目標と現状とのギャップの埋め方をはっきりと意識し、目的を持って練習をすることが必要なのである。
  • 例えば1990年代に行われたフィギュアスケートに関する研究で、一流選手と普通の選手の間には遺伝子や性格、家庭環境などに大きな違いは見られなかった一方で、練習の内容に違いがあったことがわかった。一流選手は自分の現時点の技量レベルよりも難易度の高いジャンプへ常に取り組んでいたが、他の選手はそれをしていなかった。
  • このように、傑出に必要なのは才能ではなく練習時間と目的性訓練、つまり、「1万時間の目的性訓練」である。

なお、「一万時間の法則」「目的性訓練」の元となった上記エリクソンの研究には否定的な見方も少なくないのでご留意ください(以下例示)。

  • チェス名人やプロの音楽などを調査した結果、熟達までに必要な時間はかなりの個人差があり、その差は「目的性訓練」では説明がつかない(R)
  • エリクソンの研究に対する追試では、効果の再現性が認められなかった(エリクソンの研究では個人のスキル差の48%を練習の差で説明できるとされていたが、追試では26%しか説明できないとされた)(R)

ポイント③:努力を持続させる「しなやかマインドセット」

  • これまで見てきた通り、傑出の獲得は長期にわたるプロセスになる。その中でモチベーションを維持し続けるためには、マインドセットの違いが非常に重要になってくる。
  • マインドセットに関するキャロル・ドゥエックの有名な研究により、人は2つのマインドセットを持つことがわかっている。
  1. 硬直マインドセット:知性や能力は遺伝子で決まるので変えることが出来ないと考える
  2. しなやかマインドセット:知性や能力は努力で変えられるものだと考える

本書では「growth mindset→成長の気がまえ」「fixed mindset→固定した気がまえ」という訳ですが、ここではサイト内の統一性のため、キャロル・ドゥエックの著書『マインドセット』に合わせて「しなやかマインドセット」「硬直マインドセット」と表記してますのでご留意ください。

  • ドゥエックは同じような学力水準の330人の子供を対象に能力や知性についてのアンケートを行った後、テストを実施した。その結果、学習への取り組みに大きな差が生まれ、しなやかマインドセットを持った子供たちほど、難問にも諦めずに取り組み、実際に成績も向上した。
  • つまり、「能力は生まれつきで決まるものではなく、努力で変えることができる」という信条を持つことで、困難に立ち向かい、実際により良い結果を出すことが出来た。
  • 固定マインドセットを持つと、テストは自分の才能を測るものと考え、失敗は自分が無能である証明をするものだと考える。その結果、失敗を恐れたり挑戦を避けることで、成長のチャンスを犠牲にしてしまう。
  • しなやかマインドセットを持つと、失敗は上達に必要な過程だと考えることが出来るので、積極的に挑戦することが出来る。しなやかマインドセットは、まさに一流プレイヤーの思考体の核心である。
  • また、マインドセットは教育にも関係する。子供を称賛するときに才能や結果を褒めると、子供は硬直マインドセットを持つようになる。努力とプロセスを褒めると、しなやかマインドセットを持つようになる。知能を褒めると、能力は才能で決まるものと考え、努力の必要性を感じなくなり、失敗を隠そうとするようになる。努力で向上すると信じられれば、子供たちは継続して努力しようと考えるようになる。
  • ドゥエックが子供を2つのグループに分けて褒め方の違いとテストの点数との関連性を調べた結果、知能を褒められたグループは最初のテストと比べて2回目のテストの点数が20%低下したが、努力を褒められたグループは1回目のテストと比べて30%点数が増加した。
  • 目的性訓練はギリギリ手が届かないものを得ようと継続的に努力をすることが必要である。そのためには、失敗を恐れずに自分の限界を超える課題に取り組むための気構え、つまりしなやかマインドセットが欠かせないのである。

以下の記事で感想と考察をまとめていますので、こちらも見てみてください。

コメント

タイトルとURLをコピーしました