弟子:僕なんてごく平凡な毎日しか送ってないし、年収も低く、長所や特技と言えるものもありません。才能がある人と比べたら、自分などつまらない人間です……。
猫師匠:よくわからないが、とにかく落ち込んでいるわけだ。
弟子:はい。そこで、才能がない人間でも、どうにか生きる道はないものかと。
猫師匠:いや、才能はあるよ。才能とは、誰にでもあるものだからね。
出典:『天才性が見つかる 才能の地図』
『人生は親ガチャ、遺伝ガチャが全て。生まれた瞬間に人生は決まっている。』
近年、こういった言葉を耳にすることが多くなりました。
- 「自分にはなんの才能もない、、、」
- 「どうして自分だけ、周りのみんなのようにうまく出来ないんだろう、、、」
このように、「自分の才能」について、悩みを抱えている人も多いでしょう。
スポーツの世界や社会で圧倒的なパフォーマンスを発揮する人と自分を比べ、自分の才能の無さを恨んでいる人もいるでしょう。
- 「自分には才能がない。“持ってない側“として生まれた以上、負け組として大人しく生きるしかない。」
本当にそうでしょうか?
本の概要
本書は「自分の中に眠る才能を見つけ、発揮する」方法を、過去の研究に基づいた科学的な知見から絵教えてくれる本です。
本書の結論を一言で言えば、「才能を発揮したければ、とにかくかたよれ!」です。
自分の中で相対的に優れた能力(かたより=異能)を、周囲のパワーバランスの中で発揮すること。
これを「異能バトル」と表現しています。
また、多くの人が「才能」について悩む原因は、才能に関する3つの勘違いがあるからだとされています。
- 「好き」や「得意」なことで才能を探そうとしている
- 人生を成功に導く「特別な能力」があると思っている
- 人生は「生まれ」で決まると思っている
つまり、「人生の成功を左右する特定の能力があり、その能力を持っているどうかは生まれた瞬間に決まる=その能力を生まれ持っていなければ負け組」という、いわゆる「遺伝ガチャ」の考えに相反するものですね。
著者はサイエンスライターの鈴木裕さん。
累計100万本以上の論文を読破した科学的知見から、『運の方程式』『YOUR TIME』『無(最高の状態)』など、あらゆる分野の著書を手掛けています。
月間250万PV超の大人気ブログ「パレオな男」の運営者でもありますね。
本書は「①才能に関する3つの誤解を解き」、「②その後自分に優位な“かたより“を活かす方法ためのワークを行う」という2部構成になっています。
後者のワークこそが本書の目玉になるのですが、これ実際に本書を読みながら手を動かしながらやるものになりますので、もし興味あれば実際に本書買って是非ワークに取り組んでみてください!
当記事では、前者の「才能に関する3つの誤解」を中心にまとめていきます。
なお以下は自分の言葉に置き換えながらまとめていますので、本書の正確な表現で読みたい方も是非本書を読んでいただければと思います!
「才能」に関する3つの誤解ー人生が遺伝で決まらない理由とは?
- 自分の才能を探すには、たった一つの真実だけ覚えておけばいい。それは「人生は異能バトルである」ということ。
- 要するに「適材適所が大事」ということ。至極当然のことに思えるが、それにもかかわらずなぜ多くの人が才能を活かせないことに悩んでいるのだろうか?それは、次に挙げる才能に関する3つの誤解が原因である。
才能に関する誤解①:「好き」や「得意」なことで才能を探そうとしている
- これまでの社会科学の研究では、「好きを追えば社会で活躍できる」「いつも自然にやってしまうことをやるべきだ」という考えを支持するデータはほぼない。むしろ、好きを追うことでパフォーマンスを下げるという報告さえある。
理由①:私たちの「好き」は時間と共に変わる
- 心理学の調査によれば、人間の好みは平均2〜3年で切り替わることが多い。にもかかわらず好きなことばかり追いかけていたら、情熱が少し下がっただけでやる気が失せて目標を達成できなくなる(事実自分の仕事が好きな人ほど、燃え尽き症候群になる確率や離職率が高い傾向がある)。
理由②:大抵の人の「好き」が世の中から求められていない
- 人気の職ほど需要過多になる傾向がある。例えば音楽が好きだからといって、誰もがアーティストになれるわけではない。
理由③:「好き」を追う人に対する評価が状況によって異なる
- 好きなことをした結果が評価されるかどうかはその人が誰に何をしたかで変わる(「好き」を追う情熱的な姿勢が効果的な場面もある一方、それが反感を買ってしまう場面もある)。
- また、「得意なことを探せば才能が見つかる」というのもよくある間違い。得意なことをした人が高いパフォーマンスを出せることを示した信頼性のあるデータは少なく、例えば2020年のメタ分析では、得意なことを仕事で使うようにした場合、業績に与える影響は「d=0.28」しかなかった。これは「得意なことを活かしても成果が上がるか上がらないか微妙な違いしかない」というレベルである。主な理由には以下のようなものがある。
- 長所を伸ばすより欠点を直すほうが効果が大きい
- 「得意を活かす」ことの効果が状況により異なる
- 私たちの「才能」は時と場所により定義が変わる
- 「どの能力が役立つか」は状況により大きく変わる
才能に関する誤解②:人生を成功に導く「特別な能力」があると思っている
- 「成功するためは〇〇が必須だ!」のように、成功に必要な特定の能力があるかのように言われることがある。しかし、次に挙げるような「世の中で成功に欠かせない能力」とよく言われるようなものを持ってしても、本当にパフォーマンスを発揮できるかどうかは全く予測できない。
IQの高さ
- 過去の大規模調査ではIQ135〜200の子供1528人を集め、大人になってどのような人物に育つか追跡した。その結果、大人になってからも天才的な才能を示すものはほとんどいなかったという。研究チームは「知能と将来の成功には相関関係はない」と報告している。
- また、26000人のCEOを対象としたデータでは、一般人の年収より平均12倍も多く稼いでいたにもかかわらず、IQについては平均レベルの人が多く、平均を下回るケースも珍しくなかったという。
- IQが高い人は対人関係で苦労しやすく、人間関係の質が低いことが過去の研究で何度も報告されている。周囲とうまくいかず、社会でうまく活躍できないケースも多い。
自信の高さ
- オハイオ州立大学などのチームが自信に関する81件の研究をまとめたメタ分析では、自尊心と仕事のパフォーマンスの相関は0.26しかなかった。これは、現実的にはほぼ関係がないと言えるレベルである。
- ノースイースタン大学などの研究によれば、「自分に自信がある」と答える人ほど、周囲から「信頼がおけない」「嘘つき」などと思われる確率が高かった。
ポジティブ思考
- ある調査では、ポジティブな人ほど努力を怠る傾向や挫折に弱い傾向があり、鬱の原因になるという報告も確認された。学生を対象とした別の調査では、ネガティブな性格を持つ学生の方が、ポジティブな思考を持つ学生よりも将来の年収が高くなる傾向があることが確認されている。
- そもそもネガティブ思考は決して悪いものではなく、常に最悪の状況を考えることで未来のトラブルへ備えることが出来るという利点がある。これは「防衛的悲観主義」という心理であり、ビジネスシーンでもあらかじめ失敗を考えた方が成功率が上がることがわかっている。
- ただし「ポジティブ思考=悪」ということではなく、副作用があるのでバランスに注意すべしということ。実際、楽観的な人の方が悲観的な人より平均寿命が6年長いなど、ポジティブ思考のメリットを示す報告もある。
諦めずにやり抜く力(グリット)
- アイオワ州立大学が発表した7万人分のデータをまとめたメタ分析では、グリットが高くても仕事のパフォーマンスは3%しか改善しないことがわかった。また、困難に負けずにやり抜く人ほど、ストレスが溜まりやすいこともわかっている。別の調査では、ストイックに努力できる人は50代になってから記憶力が下がりやすく、心臓病などにかかるリスクが高かったと報告されている。
- 「諦める」というとネガティブな印象があるが、実際にはネガティブな体験をより広い視点から見直す手段になり得る。適切に諦められる人ほど、日常の問題に柔軟な対応をすることが出来るうえに、問題を解決するのも上手い。
- もちろんこれも常に諦めるのが正しいと言うことではなく、「継続」と「諦め」のそれぞれの副作用を理解してバランスよく選択することが大事と言うことなので注意すべし。
練習の量
- ミシガン州立大学によるメタ分析によると、ある分野をマスターするために必要な要素のうち、練習の重要性が占める割合は12%くらいだった。また、近年の調査はいずれも「練習量ではパフォーマンスの違いを説明できない」と結論を出しているものが多い。
- 以下の条件を満たした分野であれば、練習の重要性が上がることがわかっている。
- トレーニングの方法が確立されている
- 特に初めて練習する際にはその分野の専門知識を持ったコーチの指導を受ける必要がある
- つまり、スポーツや学問などでは練習量は重要なものになる。しかし、特に変化の激しい現代では大半の分野はこの条件には当てはまらないので、練習だけでは成功にはつながらない。
では、人生を成功に導く能力とは?
- ここまで見てきたように、世の中で重要視される能力はさほど影響力がなく、むしろ副作用をもたらすこともある。
- ちなみに、先述のミシガン州立大学のメタ分析で報告された、ある分野をマスターするために必要な他の要素(練習以外の88%の要素)が何かは、多すぎて特定できなかった。つまり、超一流になるために必要な能力は無数にあるので、「人生は〇〇が9割」みたいなことは到底言えない。このように、人生を確実に成功へ導く特定の能力は存在しないと言える。
才能に関する誤解③:人生は「生まれ」で決まると思っている
- 近年になって遺伝の研究が発達したこともあり、「人生はほぼ“遺伝“で決まる」という主張を見かけるようになった。実際、大人の知数の66%、性格の50%、収入の36%は遺伝の影響だとするデータもある。
- これだけ見ると人生に遺伝が占める割合はかなり高いと言えそうだが、その前に遺伝の影響を示す指数である「遺伝率」の考えを理解する必要がある。
- よくある間違いは「遺伝率=遺伝する確率」「遺伝率=結果に占める要因としての割合」という考え方。例えばIQの遺伝率は70%だが、これは「親のIQが高ければ子供のIQも70%の確率で高くなる」「IQの高さの70%は遺伝で決まる」という意味ではない。
- 遺伝率とは、「ある集団の中でのばらつき具体」である。つまり、データの取り方次第で数値がコロコロ変わる。
- 「貧困に苦しむ人たち」のIQの遺伝率は0%になる(貧困の状況ではライフスタイルが変わりやすいので、栄養や教育など遺伝以外の要素がIQに与える影響が大きくなるから)
- 「ハーバード大学の学生」のIQの遺伝率は約90%になる(超有名大学に行く人の家庭環境は似ているので、環境の影響は小さくなり、遺伝の影響が大きくなるから)
- このように、遺伝率は単に集団内での能力のばらつきを示すものなので、「遺伝率が高い=努力するだけムダ」ということにはならない。
- 同じ遺伝子を持った人たちでも、環境によって異なる人間になることがわかってきている。一卵性の双子を分析した調査では、双子が文化の異なる国で育つほどIQの違いは大きくなり、20ポイントの差が確認されたケースもあった。
- そもそも、遺伝子の働きは後天的に変えることができる。遺伝子にはオンオフのスイッチのようなものがあり、以下の例のように、特定の行動により遺伝子のスイッチが入る。
- 運動をすれば、筋肉や骨を発達させる遺伝子のスイッチが入る。
- 健康的な食事をすれば、細胞を若返らせる遺伝子のスイッチが入る。
- このように、遺伝子では人生は決まらない。例え最初に配られたカードが悪くても、手札の出し方によってゲームに勝つことができるのである。
人生とは「異能バトル」である
- 先述のように、私たち評価される能力は時と場所によりコロコロ変わるし、一見ネガティブな特性にも良い面がある。これを自分の“異能“として使う。
- 才能とは、グループ内の「かたより」が評価された状態である。これは経済学で「比較優位」と呼ばれる考え方のこと。つまり、個人の能力は他者とのパワーバランスによって決まるので、相対的な“かたよりポイント“に特化した方が活躍できるということである。比較優位を意識して成功を収める企業も多く、例えばGoogleは成績下位5%の社員をチェックし、その人材の“かたより“に着目して最適配置をするようにしている(Googleは「成績が悪い=能力が低い」とは考えず、「その社員の“かたより“を活かせていないから成績が悪いのでは?」と考える)。
- どんな人でも“かたより“を持っており、集団内で相対的に優れていれば、例え自分の苦手なことだろうと“優位なかたより“になる場合がある。つまり、才能を活かすためには他人より優れている必要も得意なことを突き詰める必要もなく、“優位なかたより(異能)“を集団内で活かすことにある。
- 自分の戦い方を決め、異能を使いこなすことで、異能バトルに勝機が生まれる。
現代は(思ったよりも)希望に満ちている
- 先述のように、ルールが曖昧な世界ほど遺伝の影響は弱くなり、異能バトルに勝ちやすくなる。似たり寄ったりの環境では限られた特定の能力のみが重要視されるが、多様化した世界では、多彩な能力や経験が価値を持ちやすい。
- 同じ時間に全員が出社し、対面で仕事をする必要があった時代は、外向的な人ほど評価された。環境が同じであれば特定の能力のみが持て囃され、その能力を持たない者には厳しい評価が下される。しかし、テレワークが広まってくれば内向的な人も能力を発揮しやすくなるし、フレックス制度が広まれば夜型の人もパフォーマンスを上げやすくなる。かつては評価されなかった資質も、現代では活かしやすくなってきている。
- これまで見てきたように、自分の能力が評価されるかはグループ内の相対的なパワーバランスで決まり、たとえ周囲と比較して全ての能力が劣っていたとしても、必ず活躍できるポジションがある。このように、多様な能力が評価されるようになった現代では、「誰にでも才能がある」と言える。
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