変化なくして進歩はありえない。
自分の考え方を変えられずして、どうして他の何かを変えられようか。
-ジョージ・バーナード・ショー(劇作家・評論家)
出典:『THINK AGAIN』
アダム・グラントさんの『THINK AGAIN』を読みました。
ニューヨーク・タイムズのNo.1ベストセラーに選ばれ、待ち望んだ日本語版が出たので早速読んでいった次第です。
『THINK AGAIN』は、変化の激しい現代において超重要なスキルである「考え直す」ことに焦点を当てた本。
常に情報がアップデートされて知識が急速に陳腐化していく中で、常に自分自身の考え方をアップデートしていくにはどうすれば良いのか?ということを教えてくれます。
早速まとめていきたいと思います。
ところで、茹でカエルの法則という話をご存知でしょうか?
- 茹でたぎった鍋にカエルを投げ込むと、カエルは危険を察知して瞬時に飛び跳ねて鍋から離れる
- しかし、カエルを入れた鍋の温度を徐々に上げると、カエルは水温が上がっていることに気がつかずやがて手遅れになる
カエルは自分の置かれている状況を考え直す能力を持っていないがために、手遅れになるまで、自分に危機が迫っていることに気がつくことが出来ないんですね。
しかし、状況を考え直すことが出来ないのは、果たしてカエルだけの問題なのでしょうか?
本の概要
本書では、大きく「Part1:自分の考えを再考する」「Part2:他者に再考を促す」「Part3:周りと一緒に再考して学び続ける」「Part4:結論-人生プランを再考する」という4つのパートで構成されています。
著者は組織心理学者のアダム・グラントさん。
全米屈指のビジネススクールであるペンシルバニア大学ウォートン校で史上最年少の終身教授となり、Google、ディズニー・ピクサー、NASAなど名だたる企業へのコンサルティングや講演活動も行っています。
いずれもベストセラーとなった『GIVE&TAKE』『ORIGINALS』に続くこの『THINK AGAIN』も、ニューヨーク・タイムズのNo.1ベストセラーになりました。
『GIVE&TAKE』については下記記事でも簡単にまとめておりますので、参考までに。
今回の記事では、Part1「自分の考えを再考する」の内容を中心にまとめていきたいと思います。
Part2以降の内容が気になる方は、ぜひ本書を読んでみてください!(ちなみに個人的に一番好きなのはPart4)
問題提起
考え直すことの重要性
- 従来重要だとされていたのは、考えることであり学ぶことであった。しかし、変化の激しい現代において、より重要なのは既存の概念や知識、憶測、見解や信念などを「考え直す」能力である。
- 昨日正解だったものが今日の正解とは限らない。最初は代償が大きくないから間違いに気づけないだけで、問題が明らかになった時には手遅れになる。
- 例えば、新型コロナのパンデミック発生当初、世界中のリーダーの多くは「このウイルスはインフルエンザよりも感染力が弱い」「我が国がウイルスの影響を受けることはないだろう」などの推測を述べていた。そこから再検討するのに時間を要し、結果あまりにも多くの命が犠牲になっている。
- こうしたことは決して他人事ではなく、実際に驚くほど多くの場面で目にする。状況を考え直すことが出来ないことで、やがて手遅れになってしまう。
- 車のブレーキが怪しい音を立てても大したことはないと考え、やがて高速道路でブレーキが効かなくなる。
- パートナーの態度がだんだん冷たくなってきているのに、結婚生活はうまくいっていると過信する。
- 同僚の多くがリストラされている中で、自分だけは大丈夫だと思っている。
なぜ考え直すことは難しいのか?
- 人は当たり障りのないものに対しては、遠慮なく考え方を変えることができる(新しい商品に変えたり、部屋をリノベーションしたり)が、それが自分の知識や見解、信念になった時に考えを改めようとすることは難しい。なぜなら、人間は次の2つのバイアスを持っているから。
- 確証バイアス:自分の考えや信条に都合の良い情報ばかりを集めたり、信じてしまう心理的傾向
- 望ましさバイアス:自分が「こうあって欲しい」と思うものばかりを信じる、あるいは自分の願望に沿っていない情報は決して真実だとは認めない心理的傾向
- つまり、人は「自分が信じたいこと」を信じるようになっている。
- ここまでの話を受けて、「自分は大丈夫!自分には当てはまらない!」と思うのであれば、それは危険信号。人には「自分は思い込みをしていない」と思い込むバイアスがあり、頭の良い人ほど、客観的に見ることができると自信がある人ほど、このバイアスの罠に嵌りやすい。
- また、人が考え直すことが出来ないより深刻な原因は、根深いところーアイデンティティの喪失感にある。例えば、以下のように想像してみるといい。
- もし、今の仕事や人生の目標を考え直さなければならないとすれば、これから自分は何を目標にすれば良いのだろうか?
- もし、今まで信じてきたものが間違っていたのだとすれば、これから自分は何を信じて生きていけば良いのだろうか?
- もし、一番大切な自分の夢や信念、役割がなくなってしまったら、自分は一体何者なのだろうか?
- 自分の知識や見解、信念を疑うことは自分が自分でなくなってしまうように感じる。約束されていたはずの未来が、暗闇に変わってしまったように感じる。だからこそ、人は自分を疑い考え直すことよりも、確信することで得られる安心感を好むのである。
自分の考えを「再考する」
ポイント①:科学者のように考える
- 政治学者のフィル・テトロックは、人間には3つの思考モードがあることを発見している。
- 「牧師」:理想や信念を確固とするため、周りに自分の考えを説く。考えを改めることは心の弱さの表れだと考える。
- 「検察官」:他者の間違った考え方を正すために論拠を述べる。他者に説得され考え方を変えることは負けを意味する。
- 「政治家」:周りの人から是認を獲得するためのロビー活動を行う。妥当性ではなく広く支持されている考えに合わせて自分の考え方を改める。
- これら3つの思考モードでは「自分の信念を貫く」「他者の過ちを指摘する」「多くの支持を獲得する」ことに没頭するあまり、自分の見解が間違っている可能性を考えなくなる危険がある。そのため、持つべきは4つ目の思考モードである「科学者」の思考モードである。
- 科学者のように、「仮説→実験→結果→検証」と考えていくのが、科学者の思考モード。結果や解決策ではなく懐疑と疑問から始め、直感ではなく証拠をもとに説を立てる。自分の見解が間違っているかもしれない理由を能動的に探し、誤りが見つかった場合は積極的に考えを改める。
- 科学者の思考の有効性を示すものとして参考になるものは、新興企業の起業家を対象に行った以下の実験。
- 100名を超える新興企業の創立者にトレーニングプログラムに参加してもらい、ランダムに「科学者のように考えることを推奨したグループ(処理群)」「比較対照群」の2つに分けた。
- トレーニングを受けた後、対照群の起業家の多くは、当初に発案した戦略と製品に執着し続けた一方で、処理群は科学者のように考え、対照群と比べて倍以上の頻度で戦略を変え、ビジネスモデルも見直した。
- その後各企業の業績を追跡したところ、対照群の新興企業が上げた収益は平均300万ドルに満たなかったが、処理群は平均1万2千ドル以上の収益を上げた。
- 科学者の思考モードでは、自分の考えを変えることは知的誠実さを表すことであり、真実に一歩近づいたことを意味する。「まだまだ知らないことがたくさんある」という謙虚さから懐疑への道が開かれ、知らないことへの好奇心が生まれる。
- 科学者のように「自分を疑うこと」は、最強・最大の知性である。
ポイント②:「自信」と「謙虚さ」の最適なバランスを保つ
- 自信に能力を兼ねていれば理想的だと言われるが、現実には、両者は相容れないことが多い。
- 例えば、心理学者のデイヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーが行った研究報告によると、知性テストのスコアが低い人ほど自分の能力を高く評価する傾向があるということだった。この自身と能力のズレの度合いは、後に「ダニングクルーガー効果」として広く知られるようになった。
- 人は経験を積むにつれて、謙虚さを失い自信過剰になる。一度自信過剰になれば、もはや学習したり、再考しようとはしなくなる。
- 自分の知識や信念、考え方に対する自信ではなく、「自分には過ちを認め、学んでいく能力がある」という自己信頼感を持つことが、正しい「自信」の持ち方。
- 自分の学んでいく能力を信じながら、自分の解決方法が正しくない可能性や問題自体を正しく理解していない可能性を認めること。それがバランスの取れた自信と謙虚さであり、私たちが手に入れるべきものである。
ポイント③:不安や劣等感を感じるのは悪いことなのか?
- 一般的に、劣等感や不安や自己否定の感情は、苦悩を生み、モチベーションを破壊するものとして敬遠される。
- 不安が込み上げてくる時、「不安なんか怖くない!自分をもっと信じろ!」と自分に言い聞かせようとするかもしれない。しかし、むしろ不安を受け入れた方がより良い結果を生む可能性がある。自己不信を感じやすい傾向は、社会的に成功した人に多い。
- 不安や自己否定の感情は、少なくとも次の3つのメリットをもたらすと考えられる。
- 劣等感を感じることで、他者の期待に応えるため、より一層の努力とすることができる。
- 「ダメで元々」という考えから素人のマインドセットになる。物事を素直にみることで常識的な考えに対しても疑問を持てるようになり、自信過剰の罠にも嵌らない。
- 謙虚さが生まれ、素直に他者の知恵を借りて学んでいこうという姿勢になる。
- 自信が成功を生むことも多いが、成功から自信が生まれることも多々あるということは、数え切れないほどの研究で実証されている。つまり、十分な自信が湧かずとも、高いハードルに挑み超えることができる。その過程で自信を築いていけばいい。
ポイント④:自分の間違いを探し、頻繁に「再考」する
- ほとんどの人は、自分の知識や専門技術に対して誇りを持ち、不変の信念と決断力をもった人物を称える。しかし、変化の激しい時代で知識も進化していく中で、そうした考えが自分を変化させる妨げになってしまっているのであれば問題である。
- 自分の中核的な信念に疑問を投げかけられるような時、多くの人は例え自分に過ちがあってもそれを認めることが出来ない。
- 自分の信念に疑問を投げかけられる時、扁桃体が活発になり、アイデンティティを守ろうとして「闘争・逃走反応」が起きる。人は牧師や検察官になり、冒涜者を非難したり、悟りを開いていない愚か者を改心させようとする。
- 自分のアイデンティティを問う時、自分の信念ではなく価値観に基づいて自分を定義するといい。
- ここでいう価値観とは、人生の中核となる、広く柔軟性のある原理のこと(「優秀で寛容である」「誠実である」など)。価値観によって自分を定義すれば、新しい根拠や証拠を踏まえて自身のやり方をアップデートする柔軟性を手に入れやすくなる。
- 著書『超予測力』などで知られるフィル・テトロックによると、優れた予測者に共通するのは優れた知識ではなく、「見解を頻繁に改めること」であるという。
- 優秀な予測者は、再考する努力を惜しまない。自分の現時点の見解は真実ではなく、あくまで可能性の一つとして客観的に見ている。
- 背丈や天性は変えられずとも、自分の信念はいつだって変えられる。大事なのは「自分が間違うこともある」と認めること。そして、自分が間違っている証拠を探し、証拠が見つかったときには自分の見解を改めること。Amazon創設者のジェフ・ベゾスは、「多くの正しい判断ができる人は、よく耳を傾け、よく自分の考えを変える人だ」と言っている。
- 間違うことは悪いことではない。自分の過ちを発見したということは、自分の知識が一つ増えることであり、真実に一歩近づくことである。
新たな心が新たな世界の扉を開く
アダム・グラントさんの著書『THINK AGAIN』のPart1「自分の考えを再考する」の内容を中心にまとめていきました。
「考え直す」ことは、カエルだけではなく人間にとっても難しく、時に苦痛を伴うことです。
ちなみに、冒頭の茹でカエルの話には続きがあります。
実は上に書いた話は間違いで、実際には茹でたぎった鍋にカエルを投げ込んだら危険を察知する間もないでしょうし、ゆっくりと温度を上げていった方がむしろ不快感を感じて逃げる可能性が高いようです。
一度正解だと信じたものを、わざわざ疑おうと思う人は多くありません。
疑うことや自分の考えを変えることは、弱さではなく謙虚さの表れ。
間違いを認めることは、負けを意味するのではなく真実に一歩近づくことを意味する。
自分を疑い再考することがもたらすものは、アイデンティティや信念の喪失ではなく、むしろそれらを進化させること。
そうやって「考え直す」ことが出来れば、見える世界も変わってくるでしょう。
何が正解かわからない世の中だからこそ、科学者のように考え、謙虚に間違いを認め、頻繁に考えを改めていくことが、何より重要なことになるのではないでしょうか。
最後に、変化の激しい時代を生きる私たちに向けた、著者の言葉をご紹介します。
新しい情報に出くわすたびに、私たちには選択の機会がある。
出典:『THINK AGAIN』
自分の考えや見解やアイデンティティにこだわり、固執し、周りの人を諭したり非難したりすることも一つの選択だろう。
もう一つは、科学者のようにものごとを客観的に捉え、真実の追求のために尽力することーたとえ、自分の過ちを知ることになっても、だ。
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