聖人になるために、天使になる必要はない。
-アルベルト・シュバイツァー(ドイツの哲学者、医者)
『GIVE&TAKE』って本をご存知の方も多いんじゃないかと思います。
「人に惜しみなく与えるいい人ほど成功する!」ということを科学的に証明した名著です。
世界中で売れまくったベストセラーで、日本でも色んな記事に引用されたり多くのYouTuberが紹介しているので、知っている方も多いでしょう。
著者は組織心理学者であり、全米No.1ビジネススクールであるペンシルバニア大学ウォートン校で史上最年少で終身教授となっているのアダム・グラント。
学者として研究を重ねる傍らコンサルタントとしても活動されており、顧客には「Google」「NASA」「ゴールドマンサックス」「ディズニー・ピクサー」「国際連合」など世界の名だたる企業や組織が含まれています。
デビュー作ながら大ヒット作となった『GIVE&TAKE』に続く『ORIGINALS』『THINK AGAIN』も同様にベストセラーとなっていますね。
そんな『GIVE&TAKE』の中で特に重要になるポイントが「他者志向型ギバー」というものです。
というのも、「人に惜しみなく与える」という行為は、大成功することもあれば、時には自らを破滅に追い込むこともある諸刃の剣。
言葉を選ばずに言えば、後者は「搾取されてしまう人」のことです。
そういった罠に嵌らず、与えることで成功できる人が「他者志向型ギバー」です。
優しい心を持った人たちが、道を踏み外すことなく他人に親切を届けるために欠かせないポイントですね。
一体どういうものなのでしょうか?どうしたら「他者志向型ギバー」になることが出来るのでしょうか?
早速まとめていきましょう!
ちなみにこの記事は個人の解釈に沿ってまとめているものになりますので、より正確な表現や概念を知りたい方は是非本書をお読みください。
『GIVE&TAKE』のおさらい
まずは本書を読んだことがない方もいるかと思うので、『GIVE&TAKE』の内容を簡単におさらいしていきましょう。
- 大きな成功を収める人々には「勤勉で」「才能があり」「チャンスに恵まれている」という共通点がある。そして極めて重要だが軽視されがちなのが第四の要因、「GIVE&TAKEをどのように行うか」という点である。
- GIVE&TAKEのやり方において、人を以下3つのタイプに大別出来る。
- ギバー:常に受け取る以上に多くを与えようとするタイプ
- テイカー:常に与えるより多くを受け取ろうとするタイプ
- マッチャー:ギブとテイクを五分五分のバランスで行うタイプ、一番数が多い
- 厳密には、人をどれか一つのタイプに定義付け出来るわけではなく、誰もが相手や状況によって3つのタイプを使い分けている。しかし仕事においては、たいていの人はどれか1つのタイプになる。
- この3つのタイプで最も成功から遠いのは「ギバー」である。しかし、成功に最も近いのもまた「ギバー」である。
こんな感じの内容でした。
衝撃的なのは最後の文章でしょう。
一番成功するのも、逆に一番成功しないのも「ギバー」なのです。
なんだか矛盾するようですが、この違いを説明するのが「自己犠牲型ギバー」と「他者志向型ギバー」です。
一体、それぞれどういうものなんでしょうか?
「自己犠牲型ギバー」と「他者志向型ギバー」の違い
この両者の違いをわかりやすく表しているのが以下の図です。
無気力な人というのが何となく目についてしまうのですが、それは置いておきましょう。
つまり、以下のようになります。
- 自己犠牲型ギバー:自分の身を削ってでも人に与える。成功から遠いギバー。
- 他者志向型ギバー:他者の利益にも自己の利益にも高い関心を示す。成功に近いギバー。
自己犠牲型が成功から遠のくのは、テイカーの餌食にされてしまうから。
都合よく利用され、心身のエネルギーを吸い取られてしまいます。
またこうした自己犠牲は「他の人に貢献出来ていない」感覚に繋がり、それにより精神的に燃え尽きてしまうと言います。
こうした従業員はまた、心身ともに不調を抱えている。
燃え尽きた従業員は、うつ病、肉体疲労、睡眠障害、免疫システムの低下、過度の飲酒、さらには心血管疾患にかかるリスクも高まるという。
出典:『GIVE&TAKE』
文字通り心身を滅ぼしてしまう訳です。
他方、他者志向型ギバーは他者と同様に自分も大事にするので、与え方に無理がなく長続きします。
結果として自分のギブが周りに波及し、周りに助けてもらえる好循環が生まれます。
こうした違いが、「成功に最も近づくか、もっとも遠のくか」という違いを生み出すんですね。
自己犠牲型ギバーではなく他者志向型ギバーを目指そう!他人の利益も自分の利益も両方大事にしながら行動しよう!
具体的にどうやるのでしょうか?
「他者志向型ギバー」になるにはどうすればよいのか?
具体的に、他者志向型ギバーになるためにはどうすればよいのでしょうか?
性格だったり、何か特別な資質が必要で、それを持っていない私たちにはどうすることも出来ないのでしょうか?
そんなことはありません。
アダム・グラントは、本書の中で以下のように語っています。
では、いったい何がお人好しと成功者を分けるのだろうか。
それは、生まれついた才能や素質というより、その戦略や選択に関係している。
出典:『GIVE&TAKE』
戦略や選択、つまり「いつ・誰に・どのように」与えるかということを、他者志向型ギバーは決めていると言います。
どういうことでしょうか?
ギバーは次の3つの罠に陥ることにより、自分を犠牲にして与えてしまいがちだと言います。
- 相手を信用しすぎる
- 相手に共感しすぎる
- 臆病になりすぎる
こういった罠に陥らないために、上記にある「いつ・誰に・どのように」与えるかを決めておくことが重要です。
それぞれ簡単に見ていきましょう。
ポイント①:「いつ」与えるかー人助けは「まとめてやる」
自己犠牲型ギバーにありがちなのは、助けを求められる都度相手に与えてしまうこと。
このやり方が例えば仕事なら一向に自分の仕事が進まないですし、気が散りやすく、疲労感も大きいと言います。
「まとめて与える」というのはどういうことでしょうか?
例えば、以下のような感じてす。
- 週1日だけ、ボランティアに取り組む
- 人の相談を受けるのは、1日の内決まった時間帯だけにする
こういった方法の有効性を示しているものとして、以下の研究があります。
- 心理学者のソニア・リュボミアスキーが実施したRCTでは、5つの親切を1日1つずつ与えるグループより、1日にまとめて5つ与えたグループの方が、幸福度が増した。
- ハーバード大学のレスリー・パーロウ教授がエンジニアを対象に行った実験では、バラバラに与えることで疲労困憊し生産性も低かったエンジニアたちにまとめて与えるようにしてもらったところ、3分の2以上のエンジニアが平均以上の生産性を維持し、仕事をより早く終えることが出来ていた。
求められるがまま与えるより、まとめて与えた方が、幸福度も高く、平均して生産性も高くなるようです。
もちろん、ちょっとした親切についてはこのルールに当てはまらずその都度与えて行っても問題ないでしょう(老人には席を譲ってあげましょう)。
「自分を犠牲にした無理な与え方になっていないだろうか?」など自問自答しながら、この辺りのバランスを見極めてやっていければよいのではないでしょうか。
ポイント②:「誰に」与えるかーテイカーには「寛大なしっぺ返し」を
もし誰かが一度だけあなたを裏切ったのなら、それは彼らの責任です。
もし彼らが二度もあなたを裏切るのなら、それはあなたの責任です。
-エレノア・ルーズベルト(アメリカ第32代大統領フランクリン・ルーズベルト婦人、元国連代表)
ギバーの大敵テイカー。
搾取されずに人に与え続けるには、テイカーかどうかをうまく見極めて巧みに避ける必要があります。
が、残念ながらテイカーを見極めることは非常に困難です(たまに分かりやすい人もいますが)。
なぜなら、テイカーかギバーかは動機や価値観で決まるものであり、表面上の特徴とは関係がないからです(愛想のいいテイカーもいれば、無愛想なギバーもいる)。
何となく「いい人そうな雰囲気=ギバー」みたいなステレオタイプで直感的に判断してしまいそうですが、ここは注意したいですね。
そんな中で、アダム・グラントは「寛大なしっぺ返し」という作戦が有効だと言います。
寛大なしっぺ返しは、次のように応じることです。
- 相手の良い行いは決して悪れない。相手の悪い行いは、3回に1回は大目に見るが、3回に2回は張り合う
つまり、テイカーに対してのみ、マッチャーとして振る舞うということです。
ちなみになぜ3回に1回ほどの割合でテイカー的な振る舞いを大目に見るかというと、相手の真意を見極めるため。
もしかしたらたまたま悪意なくその行動をやってしまっただけかもしれないですからね。
このように自分と相手双方の利益を気にかけ、相手を信頼しつつもその振る舞いの中にある真意を見極めようとすることこそ、他者志向の戦略であると言います。
- 基本的には相手を信用し、ギバーとして振る舞う。
- 相手がテイカーとして応じて来た場合のみ、こちらはマッチャーとして振る舞う(たまに大目に見る)
そんな感じで、相手に応じた与え方をしていきましょう!
ポイント③:「どのように」与えるかーゼロサムではなくウィンウィンを目指す
3つ目のポイントは「どのように与えるか」。
ビジネスの世界などで、相手との関係を「一方が勝ち、一方は負ける(ゼロサムゲーム)」ものと捉えてしまうことがあります。
テイカーは自分や自社の利益ばかりを重視し、自己犠牲ギバーはとにかく自分を犠牲にしてでも相手の利益ばかりを考える。
勝者がいれば必ず敗者がいるものだと、ついつい考えがちです。
しかし、自分の利益と他人の利益は、相反するものではありません。
ビジネスでもプライベートても、双方が利益を得る「ウィンウィン」があり得ます。
また、ウィンウィンというのは相手と自分の間だけに留まりません。
例えば、誰かから助けを求められたとき、それは本当にあなたが手を貸すべきことなのでしょうか?
助けることを別の誰かにお願いするば、その人にとってよい経験になるかもしれないし、新たな人間関係が生まれるかもしれません。
あなたには時間が生まれ、しかも2人から感謝されます。
2人ではなく、3人の間でのウィンウィンの関係が出来上がりました。
このように、「全体の利益のパイを大きくする」ということを、他者志向型ギバーはよく考えています。
おまけ:他人からの支援を積極的に受け入れるべきか?
他者志向型ギバーになるための3つの選択、「いつ・誰に・どのように与えるか」という点を見ていきました。
最後にもう一つ重要なポイントとして、「他者志向型ギバーは、他人から支援を受ける時にどうするのか?」という点をまとめていきましょう。
自己犠牲型ギバーほど、誰かの手を借りることを居心地が悪いと感じてしまいがち。
例えば自分がわからないことを他人に教えてもらうとき、自己犠牲型ギバーはどのように考えるのでしょうか?
- いや、けど相手の時間をもらってしまうのも悪いしな・・・
こんな感じで考えてしまいますよね。
実際、医学研究者のハイジ・フリッジによると、「自己犠牲型ギバーは他者志向型ギバーより支援を受けることが遥かに少なく、そのため精神的にも肉体的にもダメージを及ぼす」ということがわかっています。
他者志向型ギバーは、他人から助けてもらうことに抵抗を感じません。
相手から支援を受けることはむしろ、相手を助けることでもあるのです。
ヘルパーズハイというものがあるように、「助けるという行為」を行った人には、幸福度や自己効力感が高まるといったことが研究から明らかになっています。
助けてもらうことで自分の精神的・肉体的ダメージを減らすことができるだけでなく、相手を助けることにもつながる。
こうして、「利益のパイ」が大きくなり、成功がどんどん周りに波及していくわけです。
このように利益のパイを広げ、「みんなで成功する」ことを実現することこそ、「与える人が成功する」ことを示す最大の特徴と言えるでしょう。
もちろん、ギバーも、テイカーも、マッチャーも成功することは可能だし、現に成功してもいる。
しかしギバーが成功するときには、ギバー特有の現象が起こるのだーその成功がまわりの人びとに波及していくのである。
出典:『GIVE&TAKE』
他者志向型ギバーになることで、「みんなで成功する」ネットワークを築いていけるといいですね。
この他にも「100時間ルール」「自分のコアバリューに沿った与え方をする」などが、他者志向型ギバーの特徴として紹介されていました。
この記事で紹介できなかったことはまだまだたくさんありますので、是非本書も読んでみてください!
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