学習の努力を水の泡にしないための「望ましい困難」とは?

学習/習慣

勉強とは自分の無知を徐々に発見していくことである。

-ウィル・デュラント(歴史学者、作家、哲学者)

先日の記事で「努力するにしてもひたすら頑張るだけじゃなくて戦略が必要だよねー」みたいな話に触れました。

ちゃんと次につながる努力をしようということですが、「意味のある努力」と言ってもそれが何なのか難しいところ。

そんな中で、学習においては「望ましい困難」という概念が参考になるんじゃないかと思いますので、まとめていきたいと思います。

世の中には学習テクニックが溢れかえっていますが、研究によって客観的に効果が実証されたものとなるとだいぶ絞られてきます。

せっかく勉強するなら誰しもがその努力が水の泡になるようなことは嫌だと思うので、そのために役立つものになるんじゃないかと思います。

早速見て行きましょう!

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望ましい困難とは?

「望ましい困難」はざっくり言えば「脳に適度な負荷をかけて学ぶことにより、長期的には学習効果が高まる」現象のことです。

アメリカの心理学者であるエリザベス、ロバート・ビョルク夫妻によって名付けられました。

学習におけるホルミーシス(少しの毒なら逆に体にいいという考え)みたいなものですね。

脳に適度な負荷がかかて学ぶというのは、例えば学んだ事をテストしたり、人に説明してみたりといったものです。

単に本や教科書を読んだり、講義を聞いていたりするよりも大変ですが、その分学習効果が高いことが分かっています。

例を上げると以下のような感じです。

  • 2006年のワシントン大学の研究では、テキストの再読をしたグループは1週間後に学んだことの52%を忘れていたが、テストをしたグループは10%しか忘れていなかった。R
  • 2014年にワシントン大学が行った研究では、「この後にテストがある!」と思いながら講義を受けたグループより、「この後人に説明しなければいけない!」と思いながら学んだグループの方が内容を正確に思い出す確率が28%高く、重要な情報ほど記憶に残っていた(人に説明しようとする事で、自然と要点を整理しようという意識になるからだと思われる)。(R

ウィリアムズ・カレッジの認知心理学であるネイト・コーネルは、「望ましい困難は学習における障壁を指し、短期的には学習を難しく苛立たしいものにするが、長期的にはより高い効果をもたらす」と言います。

テストや他人への説明のように苦労して頭を使いながら学んだ方が、学習効果が高まるという事ですね。

難しい学習法では間違える事も多くネガティブな気持ちになりやすいでついつい楽な学習法に走りがちなので、注意していきたいところですね。

望ましい困難を取り入れる時のポイント

ここまでで適度な障害が役立つ事は何となくわかりましたが、「適度な障害」って一体どんなものなのでしょうか?

この辺のニュアンスは実際に「望ましい困難」を活用するためには抑えておきたいところ。

これについては、先述の「望ましい困難」の名付け親であるビョルク夫妻が、以下のように語っておられます。

困難は、学び、理解し、覚えることを助ける符号化と想起のきっかけとなる。

しかし、学習者がうまく対応するための背景知識や技術を持っていなければ、それらは望ましくない困難になる。

出典:『使える脳の鍛え方』

さすがに自分が全く知識やスキルを持っていない分野では、苦労しながら頑張っても意味は薄いんじゃないか?というところですね。

これを検索練習の生みの親でもあるヘンリー・ローディガーは、著書『使える脳の鍛え方』で次のようにコメントしています。

どのような困難が「望ましくない」か直感的にわかるものの、必要な研究がなされていないのでまだ断定できない。

はっきりしているのは、克服できない障害は「望ましい困難」ではないということ。

読解力や言語能力が足りない学習者に、教科書と違う順序でおこなった講義の要約をさせるのは、望ましい困難ではない。

(中略)

望ましい困難は、学習者がさらに努力すれば乗り越えられるものではくてはならない。

出典:『使える脳の鍛え方』

例えば「何の背景知識もない分野の論文を1週間以内に書いてくるように課す」「どう考えても終わらないような量の宿題を課す」のように、あまりにも現実離れした苦労は「望ましい困難」にはならないようですね。

あくまで「少し背伸びすれば達成できる」くらいの難易度設定が良さそうです。

あと言わずもがなですが、「徹夜で勉強する!」「一切休憩せずぶっ通しで勉強する」みたいなのも「望ましくない困難」なので止めておきましょう(眠らないと脳内の記憶の定着も整理も行われないし、ぶっ通しで勉強してもワーキングメモリが容量オーバーになり長期記憶に保持されない)。

具体的にどんな方法があるのか?

上記のポイントも踏まえ、「望ましい困難」の具体例をみていきましょう。

実際はいろんな方法が考えられると思いますが、今回は研究によりかなり期待できそうな効果が実証されている方法に絞って3つほどご紹介していきたいと思います。

検索練習

一つめはこのブログでも何度か取り上げている「検索練習」です。

検索練習は学習学の世界では「テスト効果」とも呼ばれるもので、「なんらかのスキルや知識を、忘れかけたころに意図的に思い出すこと」です。

テスト問題を解いたり、フラッシュカード等を使って「なるべく苦労して思い出す」というものです。

その手軽さと効果の高さから「学習法の王様」と言われることもあり、とりあえず困ったらこれだけ取り入れていくというのもありなんじゃないかと思います。

その効果は研究でも実証されており、例えば上でも紹介した2006年にワシントン大学がおこなった研究では、以下のような結果となりました。(R

  • 学生を2つのグループに分け、大学の講義で扱うような科学的な文章を読み、一方のグループは文章を再読し、もう一方のグループは文章を思い出すためのテストを受けた。
  • 2日後にテストを行ったところ、再読グループは54%の内容を思い出したのに対し、テストグループは68%の内容を思い出すことができた。
  • 1週間後に再度テストを行ってみても、前者が42%だったのに対し、後者は56%と、テストグループの優位は変わらなかった。
  • さらに別の実験でも、再読グループは学習したことの52%を1週間後に忘れたのに対し、テストグループは10%しか忘れなかった!

正解するかどうかはあまり問題ではなく、とにかく「頑張って思い出す」ようにするのがポイントです。

その分間違えることも多く嫌な気持ちになることもあるかもしれませんが、長期的な効果は間違い無いので是非試してみてください。

具体的なやり方などの詳細は以下の記事でまとめているので参考までに。

インターリービング学習

2つ目は「インターリービング学習」と呼ばれるもので、これを1つ目の「検索練習」と組み合わせるとより効果的です。

インターリービングは「はさみ込む」「交互に配置する」といった意味を持つ単語で、学習においては「異なるテーマをごちゃ混ぜにして学ぶこと」を意味します。

例えば英語を勉強しようとするなら、30分ごとに「単語→リーディング→リスニング」と交互に学んでいく感じです。

例えば2015年の南フロリダ大学の研究では、以下のような結果となっています。

  • 翌日のテストでは、インターリービングを使ったグループの方が25%も成績が良かった
  • さらに1ヶ月後の追試では、両グループの得点差は倍近くに開いていた!

こちらもやり方やポイントなどを別の記事でまとめていますので、あわせてご覧下さい。

生産的な失敗

最後3つめは「生産的な失敗」と呼ばれるものです。

「生産的な失敗」は一言で言えば「何度も失敗を繰り返しながら手探りで解決策を探し、やっとのことで正解に辿り着く」学習方法です。

一見不効率に見えるような気もしますが、これが「①レクチャーを受ける→②実践する→③フィードバックを受ける」といった伝統的な学習方法よりも効果が高いんじゃないか?とも言われています。

例えばスイス連邦工科大学チューリッヒ校がおこなったメタ分析によると、以下のようなことが報告されています。(R

  • 基礎的な理論を学ぶよりも前に実践をすることは、優れた教師から1年間学ぶよりも約2倍も効果が高い!

どうやら手探りで実践をすることで、

これも短期的にはなかなか結果が出ずに苦労すると思いますが、

ただしこれも「ある程度基礎知識がある」方が実践による効果があるようです。

何の基礎知識もなしに試行錯誤をしてみても「望ましくない困難」になってしまうかもしれないので、その点ご留意下さい。

とりあえず今回はそんなところで。

参考にした本はこちら↓

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