優れたチームは互いに隠し事をしない。
醜い真実をさらけ出すことを恐れない。
非難を恐れることなく、自らの過ち、弱み、不安を認める。
-パトリック・レンシオーニ(著作家・経営コンサルティング企業創業者)
「風通しの良い会社で働きたい!」みたいなことは、多くの人が思うところじゃないでしょうか。
- これを言ったら批判されたり、自分の立場が危うくなるんじゃないか
- 言いたいことはあるが、何を言われるか分からないし、上司や周りの目が気になってしまう
上記のような感情を抱くこともなく、不満や弱さなどネガティブな感情を素直に打ち明けたり、前向きな意見を言う事が出来るのなら素晴らしいですよね。
僕自身も自分の言うこと全てが否定されるような、息の詰まる環境で働いていた時期もあったのでこういうオープンな文化には憧れもあります(笑)
ここ最近読んだ本でまさにこのようなテーマを扱っていたので、「誰もが率直に意見を言えるオープンな組織をどうやってつくっていけば良いのか」と言うことをまとめて見たいと思います。
なお、ここでいう「オープンな組織」の定義は、以下の通りとします。
- 誰もが自分の意見や過ち、不安等をストレスなく発言することが出来る組織
広いテーマなので色んな考え方があると思いますが、今回はこちらの本の内容をもとにまとめていきます↓
なぜオープンな組織が必要なのか?
そもそも、「オープンな組織」は本当に必要なんでしょうか?
必要だとすれば、どんな面で良いと考えられるんでしょうか?
組織心理学者のアダム・グラントは、「オープンな組織は、組織における学びの文化の基盤となる」と言っています。
実際、ある研究により成長そのものがコア・バリューとなるような学びの文化がある企業では、イノベーションがより多く生まれ、失敗がより少なくなることが示唆されています。
学び続ける意識が根付いた組織では、失敗は成長するために欠かせないものとして捉えます。
なので社員の失敗に対してオープンになり、社員はネガティブなことであっても積極的に報告し、結果そこから学びを得る好循環が生まれます。
失敗にオープンになれるので、過去の成功を過信したり確実で安全な道だけに捉われることなく常に学び続けることが出来て、それが創造的かつ生産的な組織に繋がっていくんですね。
何が「オープンな組織」を妨げるのか?
「オープンな組織」の対極にあるのが、「誰も自分の意見を話したがらない閉鎖的な組織」かと思います。
このような「閉鎖的な組織」はなぜ生まれてしまうんでしょうか?
考えられる要因は色々あるかもしれませんが、ここでは「非難と成果主義」の文化について見ていきましょう。
「非難や懲罰には規律を正す効果がある」という考え
「オープンな組織」の対極にあるのが、「誰も自分の意見を話したがらない閉鎖的な組織」かと思います。
このような「閉鎖的な組織」はなぜ生まれてしまうんでしょうか?
ジャーナリストのマシュー・サイドは、自身の著書『失敗の科学』で「失敗への非難というプレッシャーが、社員が自ら発言することを妨げる」と指摘しています。
企業でも病院でも政府機関でも、どこでも常にミスは起こる。
それなのに、悪意のない偶発的なミスを責め立てられたら、誰が進んで自分の失敗を報告するだろう?
そんな状態で、どうやってシステムが改善されるというのだろう?
出典:『失敗の科学』
規律や失敗に厳しい文化は、成果主義の組織文化などによく見られる傾向なのではないでしょうか。
「非難や懲罰には規律を正す効果がある」という考えが管理職に浸透することによって、こういった文化が定着するそう。
しかし、失敗に限らず日常的に自分の発言や行動を咎められてしまっていては、発言する気も失せてしまいますよね。
- どうせ、自分が何を言っても無駄なんだろう。
- 自分の意見を伝えたところで否定されるだけ。怒られるのも嫌だし、だったら何も言わないほうがいいかな。。
そう考えてしまうのも自然なことなのではないでしょうか。
このような常に失敗に対して容赦のない、ストレスフルな環境で働きたい人はほとんどいないでしょう。
実際にストレスフルな職場環境は、心身の健康に多大な被害をもたらしますことがわかっています。
例えば組織行動学者のジェフリー・フェファーが手がけた大規模なメタ分析では、「職場のストレスが心身に与えるダメージは受動喫煙よりも大きい」と結論づけられました。(R)
受動喫煙の健康被害は言わずもがなで、それを上回るというのはなんとも恐ろしい事実ですねー。
心身をボロボロにする職場では人は定着しないし、「オープンな組織をどう創るか」以前の問題ではないでしょうか。
このように、「非難や懲罰には規律を正す効果がある」という考えは、率直に意見を述べることを妨げるだけでなく、従業員の心身に深刻な被害をもたらすようです。
成果至上主義がもたらす悲劇
- 仕事では成果を出してなんぼのもの
- 失敗は悪であり、無能の証である
このような成果至上主義の風土がもたらした悲劇として有名なのは、例えばNASAの事例があります。
7名の乗組員が犠牲となったNASAのチャレンジャー号爆破事件の直接の原因は、打ち上げ当日の異常な寒波により、ガスの漏洩を防ぐOリングが破損してしまったことにありました。
直前には発射可否を検討する緊急会議が開かれており、その時点で何人かのエンジニアが危険に気がついていたそうです。
しかし、多くのエンジニアは口をつぐみ、いざ発言をしても管理職から厳しく問い詰められ、率直に意見を述べることが出来なかったそうです。
心身に与えるダメージは受動喫煙よりも大きい」と結論づけられました。(R)
受動喫煙の健康被害は言わずもがなで、それを上回るというのはなんとも恐ろしい事実ですね。
アダム・グラントは、著書『THINK AGAIN』の中で以下のように述べています。
成果重視の風土では、すべての問題の答えを知っているかのように振る舞うベテランや専門家の前で、人は自分を押し殺す。
自分の経験や専門知識に自信がない時は特にそうだ。
出典:『THINK AGAIN』
成果主義でトップダウン色の強い当時のNASAでは、例え人の命に関わるような危険を察知した場合でさえ、立場が上の人に対して自分の意見を伝えることは出来なかったようです。
ここまでで、非難や成果主義の文化が「オープンな組織」を妨げることを見ていきました。
しかし、本当に必要なことなんでしょうか。
オープンな組織・学びの文化を醸成するための2つの要素
ここからは「オープンな組織をどうやってつくっていくのか?」というところをまとめていきます。
「風通しの良い組織風土にしよう!」とはよく言いますが、その抽象的ゆえに何から手をつけていくのか難しいところ。
オープンな組織風土、学びの文化を醸成するには、どんな要素が必要になるんでしょうか?
①心理的安全性
一つ目は、以前も別の記事で取り上げた「心理的安全性」。
詳細は上記の記事を見ていただければと思いますが、ざっくり言えば心理的安全性は「自分が無知や無能と思われるような行動や発言をしても、この人たちからは絶対に馬鹿にされたり批判されない」と心から信じられる状態です。
チームや仲間に対して信頼感を持てる状態で、このような心理状態になれれば率直に自分の意見を述べられるようになることは想像に難くないでしょう。
実際に「心理的安全性」は研究などでも良い結果が示唆されており、代表的なのは以下のようなものがあります。
- ハーバード・ビジネススクールのエイミー・エドモンドソンらが病院を対象に行った調査で、「心理的安全性があるチームは医療過誤の報告は多かったが、ミスの頻度はより少ない」ということがわかった。(R)
- Google社が社内の180の部署にインタビューを行い、「最も生産性が高いチームは何が違うのか」を調べたところ、「最も重要な要素は心理的安全性だ」と言うことがわかった(R)
ちなみに最初の例で心理的安全性のあるチームの方がミスの報告が多いのは、ストレスなく失敗を伝えることが出来るから。
逆に心理的安全性のないチームは、非難される恐れから失敗を報告する事が出来ず、結果それがミスの増加に繋がってしまったそうです。
そして心理的安全性のある環境をつくるには、何より人が互いを尊敬・信頼し合うことが重要です。
この「心理的安全性」が、要素の一つ目です。
②プロセス・アカウンタビリティ
「心理的安全性が重要!」となった時に、次の疑問を感じる方もいらっしゃるんではないでしょうか。
- つまり、リラックスしたゆるい雰囲気が重要と言うことか。それって規律がなくなって生産性が落ちたり、社員たちがだらけすぎてしまわないだろうか?
これについてマシュー・サイドは、「オープンな雰囲気と規律は相反するものだという前提は間違いであり、両者は両立可能である」と指摘しています。
そこで必要になるのが、「プロセス・アカウンタビリティ(手順や過程への説明責任)」です。
前述のエイミー・エドモンドソンによると、心理的安全性があってもアカウンタビリティがない場合、人はコンフォートゾーンにとどまり、逆だと不安レベルが高くなりすぎるとのこと。
また、学習を続ける文化には、結果以上にプロセスに対する説明責任が重要です(結果に至るまでにいかに慎重に選択肢が検討されたか?など)。
結果が良くても過程がダメなら、それは運が良かっただけ。
しかし、結果がダメでも過程が良いものなら、それは成功に向けた良い実験が行われた、と評価することができます。
この実験の繰り返しこそが学びであり、プロセスへの説明責任が、良い実験を促進することになります。
なので、「心理的安全性」に加え、「プロセス・アカウンタビリティ」を持たせることが、健全に学び、そのために誰もが率直に意見言えるオープンな組織の創造に欠かせない要素になります。
まとめ
そんな感じで、「誰もが率直に意見を言えるオープンな組織をつくるには何が必要なのか?」と言うことを、いくつかの本を参考にまとめていきました。
ざっくりポイントをまとめると、
まあかなり広いテーマなので色んな考え方があるとは思いますが、一つの形として、少しでも参考になれば幸いです。
少なくとも、閉鎖的な組織よりオープンな組織の方が、会社にとっても社員にとっても間違いなく良い環境になると思いますので。
そんなところで。
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